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篠宮の事は、生理的に嫌じゃないんだと思う。
村井さんと食事に行く事を考えると億劫なのに、篠宮と食事に行く事はいつの間にか抵抗などない。
手を繋いでも、平気。
どうしてだろう。
誰でもいいわけじゃない。何が違うんだろう。
ただの同僚でもあり、それ以上近いものもあるような…
篠宮の存在が、自分の中でうまく説明できない。
「あ、お疲れ様」
篠宮の事を考えながら自分の席に行くと、隣の席は聡君だった。
……まぁ。
同じテーブルになる事は分かってたし。
「よく似合ってるね。ドレスもメイクも」
ウェルカムドリンクを飲みながら、聡君はニコッと笑う。
途端に跳ね上がる自分の心臓が恨めしくて、バレないように溜息をついた。
聡君を見ると、村井さんとも、篠宮とも違う感情が込み上げてくる。
「ありがとうございます」
「あ、ごめん。セクハラになるかも」
「いいですよ。嬉しいです」
聡君が人の事を褒めるのなんて、特別な事なんかじゃない。
真に受けない、真に受けない。
甲高い声の司会者が挨拶をして、創立記念パーティーが始まる。
社長の長い挨拶の後、乾杯の音頭が取られて、周りの人達とグラスを合わせた。
当然、聡君とも。
「乾杯」
カチンと合わさったグラス越しに見る、聡君の笑顔。
その瞬間、2人で誕生日や記念日など祝った思い出がフラッシュバックする。
あの時の幸せだった気持ちと、戻れないという切なさが胸に込み上げて来る。
──止めて。
忘れられない思い出をかき消すようにシャンパンを飲むと、くらりと脳が揺さぶられたような気がした。
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