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用意された部屋へ案内され、ホテルスタッフの方に御礼を言うと、ソファーにずるりと体を預ける。
「大丈夫?」
聡君から渡されたミネラルウォーターを口にすると、スッと体が冷たくなって、動悸も落ち着いてきた。
何やってるんだ、私。
メンタル弱すぎ。
「体調良くなるまで寝てたら?」
「大丈夫です。少しマシになったので、課長は戻って下さい」
聡君が隣に座るが、突き放すように言ってしまった。
心が危険信号を出してる。
近寄らないでって。
「こんな時まで敬語じゃなくていいよ。
普通に話してよ」
だけど聡君は私が気を使ってると思ったようで、フッと笑われた。
「もう少し付いてるよ。菜月が心配だし」
ズキン、と胸が痛む。
何の意味もない事なんて分かってる。
これが私じゃなくても、誰であっても、聡君は同じ対応をする。
分かってるの。
だけど側にいて、私の名前を呼んで、私を見つめて。
目の前にある、欲しくて欲しくてたまらないものに手を伸ばそうとするのを、「いけない」と押し殺して。
私は、前に進もうとしているの。
前に、進みたいのに…
息苦しくて胸をギュッと押さえると、聡君が「大丈夫?」と背中に手を置いた。
至近距離で目が合う。
──その瞬間。
張り詰めていた心に、亀裂が入ったのが分かった。
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