4317人が本棚に入れています
本棚に追加
「菜月……?」
思わず、抱きついてしまった。
聡君に触れられた瞬間、スイッチが入ったように理性が音をたてて崩れた。
バラバラ、バラバラと崩れ落ちる。
ガラスの破片のように砕けた理性は、感情という渦に飲み込まれて止められなかった。
「どうした?具合悪い…?」
聡君の胸の中で、フルフルと頭を横に振る。
止めようと思っても、やっぱりここに戻される。
忘れたいと無理矢理気持ちに蓋をしても、いざ目の前にするといとも簡単に溢れだす。
人の心なんて、こんなにも脆い。
「……聡君。
もう、戻れない?」
泣くことなんてしなかったのに。
別れた後に泣いて縋りつく私は、なんて滑稽なんだろう。
だけどもう、限界。
心が、限界なの。
聡君の首に腕を回したまま、言葉にできない思いがとめどなく駆け巡る。
私の事を受け止めて──。
祈るような気持ちでぎゅっとしがみついた
腕を、聡君はゆっくりと解いた。
最初のコメントを投稿しよう!