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「ごめん……」
眉間に皺を寄せて、その顔は苦渋に満ちていた。
あ…………。
ボロボロと涙を流したまま、ただ力無くその言葉を聞いた。
もう、戻れない………。
やっぱり、二度と戻れないんだ。
頭の中で、この言葉だけがぐるぐると回っているのに、受け入れたくないのか他人事みたいにフワフワしてる。
聡君の手から離れた腕は、力を入れる事ができずにだらりと落ちた。
「……俺に言いたい事沢山あるよね?」
もう、声が出ないよ。
打ちのめされて何も言えない。
「最後、何も言わなかったから」
聡君が目を伏せる。
言えるわけないじゃない。
私より若くて、可愛い子が好きだなんて言われて。
これ以上傷つきたくなかっただけ。
──言わない方が楽だからね。
突如、初めて篠宮と食事に行った日の言葉が浮かんだ。
あの時の、憎たらしい顔まで一緒に。
バカな事言わないでよ。
楽な事なんてないわよ。
傷つきたくなんてないけれど、いくら弱虫の私でもこれが最後のチャンスだって事くらい分かる。
だから……前回と同じ事はしない。
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