社長宅の住み込みお掃除係に任命されました②

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そういえば、朝食ってどこへ行くんだろう? 私が、ふとそんなことを思った時、社長はエントランスの先にある半自動ドアに手をかざした。 そこは、併設されたカフェで、コーヒーのいい香りが漂っている。 「紗世、何にする?」 社長はそう聞くけれど…… た、高い! ほんとはカフェモカとか飲みたいし、キッシュとか食べたいけど、それだけで1000円超えちゃう。 全財産をなくした私の朝食の予算は200円なのに。 どうしようかなぁ。 私が困っていると、社長が不思議そうに覗き込んだ。 「どうした? ‪いつもそんなに迷わないだろ?」 確かに、私はいつも食べたいものを即決するタイプ。 「いえ、その……」 お金がないとは言えない。 言えば、社長は絶対おごるって言うに決まってる。 私が返事に困っていると、社長は、財布から1万円札を取り出した。 「とりあえず、3日分の給料前払いな」 3日分? そうか! 1ヶ月30日だとすると、月10万円ってことは、3日で1万円なんだ。 「これくらい、俺が出してやってもいいんだけど、紗世はそういうの嫌いだろ?」 さすが社長! よくご存知で。 私は、ありがたくその1万円を受け取ると、希望通りカフェモカとキッシュを注文した。 私たちは、通りに面したカウンター席に並んで座り、それぞれに頼んだ朝食を食べる。 「紗世のご両親は今回のこと知ってるのか?」 社長はコーヒーを飲みながら尋ねる。 「いえ、言ってません。言ったら、帰ってこいって言うに決まってますから」 せっかく正社員になれたのに、それは嫌だ。 「じゃあ、折を見て、うちの住所を知らせておくんだな。引越し先を連絡しないと、心配するだろ」 こういうさりげない心遣いが嬉しい。 「はい。そうします」 朝食を食べ終えた私たちは、店を出る。 地下鉄の駅へと向かおうとする私に、社長が声を掛けた。 「タクシーで行くから、紗世も一緒に来い」 えっ? 「いえ、私は……」 社長と一緒のタクシーで出勤するところなんて、誰かに見られたら、なんて言われるか分かんない。 「車内で説明するから、とりあえず、来い」 強引な社長は、手を挙げてタクシーを呼び止めると、私を先に乗らせて、続いて自分も乗り込んだ。 「相田(あいだ)は、休みがちだし、数ヶ月後には産休に入る。だから、八代(やしろ)を第二秘書にしておいて、相田が産休に入ると同時に正式に秘書にすることは、もう総務部も秘書課も了承済みで、来週にも内示が出る」 えっ、そうなの!? 私は驚いて、目を見開いたまま隣の社長を見つめた。 っていうか、仕事モードになった瞬間に、呼び方が紗世から八代に変わるところもすごい。 「くくくっ  何を驚くことがある?  そのための正社員採用だよ。  そこでだ。  社長秘書として、出勤時間に打ち合わせをしたいから、毎日、うちまで迎えに来て欲しい」 は? それって、つまり…… 「社長命令で、毎日めんどくさいのに、いやいや一緒に出勤しろ」 これから、毎日、一緒に出勤するための言い訳を作ってくれたってこと? 驚いてものも言えない私に、社長は、ニッと笑う。 「これは、命令で決定事項だ。分かったな」 反論もできないし、したところで、社長が聞くとも思えない。 私は従うしかない。
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