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「見て、超きれい」
アオの呑気な声に思わず、腹がたった。
「今の状況わかってる? 私達めちゃくちゃピンチなんだよ」
スマホを見ながらなるべく感情を殺して返事する。ツイッターやニュースサイトを素早く巡回して、いまだアオの犯行を明るみに出ていないようでほっとする。
私達は逃避行の真っ最中なのだ。のんびりしている暇なんてない。
********
深夜二時頃にアオから、<やばい><外出れる?直接喋りたい>突如こんなLINEが飛んできた。
こんな時間帯までアオが起きていること自体珍しいのに、その切羽詰まった文面はさらに混乱を加速させた。
寝静まった両親を起こさないように、こっそりと玄関に出た私を待っていたのは目を疑う光景だった。
咄嗟に手で口を抑えて、声を押し殺した私を誰か褒めてほしい。
アオの格好はラフな部屋着だった。白いTシャツにゆるっとしたハーフパンツ。夏だし別に近場を歩くくらいならそうおかしな服装ではない。
ただある一点が異様さを醸し出していた。
白地のTシャツにどす黒い赤が染み込んでしまっているのだった。しかも胸元からお腹あたりまでかなりの量の血を含んでいるように見えた。
気づいた瞬間にありもしない、濃い血の匂いを感じた。
事情を聞いても、動揺からかアオの話は支離滅裂だった。わかったことは義父を包丁で刺したということ。それも滅多刺し。
布に包まれた包丁を握りしめていたし、多分……事実。
********
ふと昨夜の出来事が頭をよぎる。
今日も学校サボりだな、なんて他愛もないことを考えたくなる。
スマホを眺めながら考えを遠くに飛ばした私の方がぽんぽんと叩かれる。振り向くとむにっと頬にアオの指がめり込んだ。
「もう――」
飛び出しそうになった文句が喉の奥でつっかえた。
真っ青な世界が目に飛び込んできた。
どこまでも続く空の青。鏡のように空を映し描く水面。ぐるぐるしていた思考がクリアになって、私と世界との境界線が曖昧に揺れる。
「ね、きれいでしょ?」
「……うん」
焦りやイライラが解きほぐされた。別に状況が好転したわけではないけれど、ちょっと落ち着いた。
脳天気な笑顔を浮かべるアオに呆れて、つい笑みがこぼれた。
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