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すっかり日も暮れて、辺りは真っ暗になった。
行き交う車のライトが二人の顔を順繰りと照らす。
「…見つかったらさ」
「え?」
さっきコンビニで買ってもらった缶のミルクティーは半分を残してすっかり冷えていた。
「もし、ソレが見つかったら、どうするの?」
私の問いに、ハラくんは、あー…と唸った。
「あんま、考えてなかったな」
そう言いながら、がしがしと頭を掻く。
「私だって、記憶曖昧だから、見つかんないかも知れないからね」
「いいよ。別に…」
ウィンカーのカチカチという音でその言葉はかき消される。
やがて、車は古い住宅街に入った。
私にとっては見慣れた場所。ハラくんにとってはおそらく初めての場所。
「そこの角曲がって、三軒目。」
犬の散歩をしているおじさんが、私達の車のライトでぼうっと浮かび上がって、すぐライトは消された。
「ここか」
ハザードをつけて、ハラくんは車から降りた。
私もその後に続いて車を降りる。懐かしい。
着いたのは、昭和の終わりから平成の始めに建てられたような、平屋の普通の住宅。
他の家が暖かそうな光を放つ中、その家だけは電気が消えていた。
「車、ここに停めていいと思う」
私は重いシャッターをあけてガレージを指した。
ハラくんは私の誘導でガレージに車を停め直した。
「なんか…勝手に入って悪いな」
「いいよ。もうおばあちゃん施設にいるし」
ナイショ、とでも言うように、私は唇に指をやった。
そう。ここはおばあちゃんの家。今は誰も住んでいない。
ガレージ横の階段を上がり、門を開ける。
おばあちゃんが大事にしていた植物は枯れかけていた。
「庭、こっち」
「待って、シャベル持ってこなきゃ」
「あ、そうだった」
まるで泥棒のようだ。なんだか面白くなってきて、笑ってしまいそうになる。
ハラくんが車の方に戻ったので、私は玄関を開けて中に入った。
携帯の明かりを頼りにブレーカーを上げる。
同時に、冷蔵庫か何かが、ブーン…、と低い稼働音を立てた。
樟脳の匂いがかすかに香る、おばあちゃんちのにおいだ。
私はハラくんが困らないように、玄関灯を真っ先に点けて、続いて庭側の部屋の明かりを点けて回った。
コンコン、と玄関をノックする音がして、私はドアを開けた。
「シャベル、持ってきたよ」
おそらく、呼び鈴を鳴らして物音を立てるのすら遠慮したのだろう。そう思うとまた笑えてきそうになる。
「あ、しまったな。ジャージ持って帰れば良かった」
私はスカートにローファーだ。
一方のハラくんは、作業着と汚れたスニーカー。
「ずるい」
「なんだよ。じゃあ俺がやるから。場所教えて」
「いいよ。私もやる。私も見つけたいもん」
私は衣替えでおろしたばかりの制服を腕まくりして、ハラくんの持つシャベルを一つ取った。
そう。私たちはこれから、お姉ちゃんが亡くなる前に埋めた「タイムカプセル」を掘り起こそうとしているのだ。
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