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「さて、続きやるか」
時計はもう12時を回っていた。
半分に欠けていた月はもうどこかに沈んでいってしまっている。明かりを消してしまえばもう真っ暗闇だ。
それからは、二人ほとんど喋らなくなった。ひたすら、庭のあちこちを掘る。掘っても掘っても、何も見つからなくなった。
私は、一体何を探しているのだろう。
それは確かに、赤い缶…指輪なのだが、それではない、何か別のものを探しているような気持ちになる。
『お姉ちゃんが生きていたらーーー』
ふと、そんな思いが過ぎった。
お姉ちゃんが生きていたら。
あの日、ドッヂボール大会に参加して、普段どおりに帰って、バイトが遅くなったとうそぶくお姉ちゃんをお母さんがたしなめて。
お父さんとお母さんが離婚することもきっと無かっただろうし、私がきょうだいのことを聞かれてもお姉ちゃんを「殺す」ことは無かっただろう。
きっと、おしゃれが好きだったお姉ちゃんに教えてもらって、化粧も上手になっていたし、一緒に洋服を買いに行っていたかも知れない。
お姉ちゃんも結婚して、私には甥っ子や姪っ子がいたかもしれない。
そんな未来が、あったかもしれない。
そんな事を夢想して、こんなにも涙が出るなんて…。
「もう…見つからないよ…」
そう言うと、私はがくりとその場にしゃがみ込んだ。気がつくと、庭は掘り返した土で小山が沢山出来ていた。
「諦めんなよ。絶対見つかるから。さぁちゃんは休んでていいよ。」
ハラくんは、手を止めようとしない。
「違うよ。そうじゃないよーーー。」
もう、戻らないんだよ。
一度死んだ人間は。
「お姉ちゃんは死んだんだよ…」
そう言うと、ハラくんはシャベルを持つ手を止めた。
そう。お姉ちゃんは死んだんだ。
どうしたって、その事実は変わらないんだ。
指輪が見つかったら。お姉ちゃんが、お姉ちゃんのカケラ見つかるような、お姉ちゃんがいた日々が少しでも戻るような、そんな気がしていた。
私たちは、なんだか期待してしまっていたんだ。
少しでも、お姉ちゃんに近づけるような、そんな勘違いを。
「指輪が見つかったら…なにかが変わる気がするんだ」
「見つかったって、何にも変わらないよ…お姉ちゃんがいた頃に、私達はもう戻れない。お姉ちゃんは、死んだんだよ。」
そうだ。そうなんだ。
どうやったって戻れないんだ。私たちは…
お姉ちゃんがいない世界を、
お姉ちゃんがいないなりに、
生きていかなくちゃいけないんだ。
「お姉ちゃんは死んだんだよ。ハラくん。」
もう一度言うと、ハラくんは静かに涙を流した。
「私たちは、それを受け入れて、それでも生きなきゃいけないんだよ。」
それが、私が見つけた答えだった。
「お姉ちゃんを好きになってくれてありがとうーーー」
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