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03 seed leaf
あれから、4日後の金曜日。
彼女はまた店に来てくれた。今度は満開の“あの子”を見せに。
「4日、掛かったんですか?」
気になって尋ねてみた。綻び始めると、一気に咲くことが多い花だから。
「エアコンで温度管理しているんです。その時の花の状態に合わせて」
「え?」
「そのぐらいしないと、長くは咲きませんよ。私、魔法使いじゃありませんから」
「昔から?」
「ええ、もちろんです」
「そこまでする?」
「はい。もちろん。暑いのは苦手ですけど、寒さには強いので」
俺の方が負けた。
職場では温度管理は徹底するけれど、花を飾っても、自宅ではそこまでしない。自分が我慢するとか、自宅では避けたい。
「“緑さん”の正体見たり!って感じでしょ?」
「いや、やっぱり“緑さん”だ」
「ずるして、花を保たせてるだけですよ?」
「温度管理までするから、すごいんですよ。湿度もでしょ?」
「はい。それはもちろん」
「調べたところで、詳しくは載っていない。原産地と同じで良い訳でもない。品種改良されているから。勘と経験でしょ?」
「そう、かも」
「だから、すごいんだよ。一朝一夕では出来ない。俺だって、何年もかかった」
調子に乗って、自分のペースでしゃべりすぎた。そのことに気付いて、思わず口元に手を当てた。
「いいと思いますよ。“俺”でも、砕けていても。そもそも植物を愛でるのが、高尚な趣味でなきゃいけないような、そんな風潮がいけないんです」
唖然とした。彼女は、こんな風に話す人だったんだ。
こんなの、益々……。
「す、すみません。私の方が口が滑りました。また来ます。失礼します!」
驚く速さで、走って行ってしまった。
「やたら、足速いじゃん……」
外で水やりをしていた長坂が呟いて、二人で彼女の背中を見送った。
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