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「店長、素、モロ出しでしたよ」
この店のスタートからいる長坂が言った。
彼女だけが社員で、あとは主婦のパートさんだ。
採用条件に、自意識過剰だと思いつつ、「店長に恋愛感情の類いを持たない人物」という項目を入れた。その結果が、長坂と主婦のパートさんだ。
彼女は、有能で逞しい。そして、竹を割ったような性格だ。アレンジのセンスも良い。安心して任せられる。
熱烈な相撲ファンで、将来力士と恋に落ち、結婚する予定なのだそうだ。暇さえあれぱ、両国をうろうろしているらしい。
そんな彼女は「店長はモヤシに見える。背が高いだけじゃ、だめね」と言う。
とは言え、彼女は態度は大きいが、小柄で華奢だ。
「子供の洋服を着せたい。だって、見かけだけは可愛いもの」
主婦のパートさんが話していた。
長坂の方がモヤシだろ!と言いたいが、何を言い返されるか分からないから、何も言わない。
裏表のない、はっきりした物言い。初めて出来た女友達のような感じだ。同志として、長く関わっていきたいと思っている、心強い味方ではある。
ちなみに、俺が長坂を見たときに連想したのは里芋だ。
トトロが持つ里芋の葉。
力士の腕に抱えられる長坂。
自分の直感は間違っていないと思った。
「店長と“緑さん”いいんじゃないですか?」
彼女には、口では敵わない。何も言わない方が、身のためだ。
「店長、すっかり気を抜いて、“俺”何て言っちゃってるし。男、アピールしてますよ。」
思わず、彼女の顔を凝視した。
「それにひた隠しにしているチャラい話し方とか、そのくせ、お婆様の影響の古い言い回しとか。時々出てますよ」
「……ほんとかよ」
「何、動揺してるんですか?今日だけじゃないですよ。だいたい彼女と話す時はいつも。少しずつ、ですけどね。だだ、他のお客様には絶対そんなことしないから」
彼女はニヤリと笑った。
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