207人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は衝撃で口が利けない。
隠せていると、思い込んでいたから。
長坂を軽くあしらったり、誤魔化したりするタイミングも失った。
「え?バレてたの、気付かなかったんですか?パートさんも、みんな知ってますよ。」
「は?」
「いつ二人がまとまるか、賭けてるんです。角の“SOLEIL”のケーキ。一人一個、勝者に買い与えられる!店長ファイト!!」
息を飲んだ。
他の3人の、にやついた顔が目に浮かぶ。
「……で、長坂はいつ頃だと思った?」
「聞きます?」
「参考までに」
「教えなーい」
「クビだな」
「横暴な雇い主は訴える!」
「いやいや。店長を貶めようとする社員などいらん!」
長坂はしばらく電卓を叩いていたが、ふと手を止めて言った。
「……きっと、大変ですよ。お互い思えば、思うほど」
意外にも、労りのある声で長坂は言った。
「だから、店長がフラれる。に一票投じました!ハッハッハ」
「俺は何にも言ってない!彼女に俺がどうとか言うのは、お前らの遊びだからな!」
辛い表情になるのを避けるために、わざと怒った。きっと、長坂もわざと怒らせるように言った。なんだかんだと言っても、信頼できる人間だ。
少くとも現時点で、俺の思いが受け入れられないことは、想像がつく。
だから、踏み込めない。踏み込まない。
他者と俺を見分けられないかもしれない彼女に、俺を選んで欲しいなんて、簡単には言えない。言えるわけがない。
「でも、可能性はない訳じゃないと思いますよ。店長、ファイト!!」
本気だか何だかよく分からない、励ましを貰った。
最初のコメントを投稿しよう!