04 growing(1)

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04 growing(1)

 火曜日。生憎の梅雨空だ。  こんな日の売れ行きは、予想がつかない。  気が滅入るから花を買いたいという人もいれば、持ち歩くとき花が傷むと嫌だからと、買わない人もいる。  ありがたいことに、“June bride”に憧れる人が多く、式場の花のアレンジやブーケの依頼が多い。パートさんに店を任せ、二人で出張。手が足りないので、ホテルの従業員や同業者にも依頼しての作業になる。  この時期、芍薬の指定が多く、嫌でも彼女を思い出してしまう。  集中しようと軽く首を振っていたら、長坂の視線に気付いた。  目が笑ってる。  長坂が口を開きかけたけれど、思い切り無視した。長坂といると、俺はどうしても中学生くらいに戻ってしまう。  努力して作り出した、俺のイメージ。  品があって、優しく、穏やか。  そういった雰囲気のアレンジは得意だ。  でも、本当の俺はそうじゃない。  見る側が求めるものを、創り出すのも仕事のうち。  祖母が、教えてくれた。 「『声は品格、話し方は人格、言葉は知性』と言うのよ。有名な方の受け売りだけどね。」 「意味分かんねー」 「分かるまで、とりあえずその言葉遣いは慎みなさい。お客様と目上の方の前では特に。花を扱うことは、まだ一部の高尚なものを好む人たちの楽しみだから」 「それが、やなんだよ。変えたいんだ」 「ルールを破っている人が、ルールを変えたいと訴えても理屈は通らないでしょう?」 「それはまあ。……分かる」 「同じよ。変えたいなら、実力でのしあがって、それからよ。現状はお前の力程度で変わらないから」 「…………。」 「不貞腐れる暇があったら、よく考えなさい。信用が大事に決まってるでしょ?小生意気な若造に、お金なんて払うもんですか!」  それから、かなり努力してお客様と目上の方、仕事関係者には改まった話し方をしている。声まで変わるから不思議だ。だから、そっち系の振りをするのも、案外楽だったのは助かった。  祖母のアドバイスに従った結果、悔しいくらい良いことの方が多かった。  ただ、長坂とパートさんの前だけは、素と仕事仕様の半々。 
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