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就職して一年ほど経って、兄は家を出ました。同じ都内にいるのに、帰ってくるのはお盆と正月くらいです。
でも、兄が両親に口を利いてくれていたんです。
「潤には店を継ぐ以外に、やりたいことがあるんだと思う。それに、叶恵の話も聞いてやってくれ」
父親には、また違う願いや思いもあったようです。母は、俺達兄妹がぎくしゃくしているのは、店のせいだと考えて悩んでいました。それも一つの原因ではあったけれど、結局は言葉も思慮も足りなかった、俺が悪いんです。
妹の叶恵は、ずっとテキスタイルデザイナーに憧れていたんです。親の仕事を、一番近くで見ていたのは妹でした。
自分だけが、貧乏籤を引かされていると思い込んでいただけで、妹のチャンスまで潰そうとしていたことに気付かなかった。
妹は外で修行して、店を継ぐつもりでいます。それまでは、俺が手伝いをしながら、両親を支えていこうと思います。
俺は、家族の形まで歪にしてしまいました。もう、謝罪の機会はありません。
それが、自分への罰みたいなものだと思っています。
本当に勝手ですが、俺の家族と美花さんが幸せでいてくれることだけが、俺の望みなんです。
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