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月曜日の朝、8時過ぎには目が覚めた。
昨日は冷静でいたくて、さほど飲まなかったし、途中からは飲めなかった。長坂と少し飲んだくらいだから、休みにしては比較的早くに目覚めた。
武田君の話を聞いて、彼に苛立ちや怒りを感じなかったわけではない。お兄さんに対しても同様だ。
でも、ずっと感じていたことをはっきり自覚した。その出来事が無ければ、俺は彼女に出会えなかったかもしれない。出会ったとしても、関係性は違うだろう。
長坂が“温情措置”なんて言ったけれど、たぶん違う。その時、彼女の恋が終わったことを心のどこかで喜んでいることに気付いてしまったから。だから、怒りをあらわにできないだけ。
その代わり、きっちり終わらせてもらう。彼女が躊躇いなく俺と過ごせるように。幸せを心から喜べるように。
だからこそ、武田君にお兄さんと話すことを勧めた。
ゆっくり風呂を済ませたら、朝食兼昼食をとって、店に行くことにした。秋の花を入荷したものの、この厳しい残暑では傷みが気になる。
店についたのは、11時半だった。
お客様も店員もいない、薄暗い店内を見るのが実は好きだ。枝物と花の異なる香り。
ついさっきまで、植物だけの違う世界があったんじゃないかと思うくらい、生き生きした感じがする。人間がいなかったら、世界はきっと植物だらけになるんだろうと思う。
一つ一つは儚いけれど、強い生命力。
店内全ての花の状態を確認し、温度の調整、水やりを終えると小一時間経っていた。
今日、彼女に花を贈るとしたら、どれにしよう?店内を見渡した。
キキョウ、ダリア、バラ。そのほか、夏の名残の花もちらほら。
ふと、売り物ではない鉢に目をやる。テッセンと同じくらい手をかけたフクシア。
「女王のイヤリング」とも呼ばれる、ぶら下がるような花の形が特徴的だ。夏場を乗り切って、再び花をつけた。
花言葉はなんだろう?
記憶になくて、調べようと思ったとき、こんこんとガラス扉を叩く音がした。
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