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「自分を許せないまま、ずっと過ごすと思っていました。大樹さんが、溶かしてくれたんです。わだかまりも、苛立ちも、不安も。だから、もう前に進めます。繰り返さないために、忘れることはないですけど」
「武田君に、お兄さんと話すように伝えた」
「そうですか」
「その後で、美花さんと話すように言った。俺も同席する。でも、俺が関わるのはそこまで。その後のことは、美花さんが決めて」
もしかしたら、二人は会った方が良いのかもしれない。
「はい。ありがとうございます。そうします」
励ましたいような、ただ待つだけでいいような不思議な感じ。でも、不安はない。彼女を信じられる。彼女の頬に手で触れて、そっと離した。
「さっき、どうしたんですか?『あ』って」
「この花をね、調べたんだ。」
「春にも咲いていましたよね?」
「そう。女王のイヤリングって別名もある」
「ぶら下がる感じがかわいい」
「色の種類も多いんだ」
「おしゃれですね。なんだか」
「おしゃれなだけじゃないよ。花言葉をさっき調べて、知ったんだけど」
「何ですか?」
「信じる愛」
「信じる愛?」
「愛を信じるじゃなくて、信じる愛。すごく、良くない?…ね、美花」
過去の誰かと、張り合う訳でもない。
もう一度彼女の名前を呼んだら、自然に言えた。
彼女の両目に、涙が溢れた。
「ありがとうございます。私を見つけてくれて。好きになってくれて。その上、信じてくれて」
様々な植物が見守るなか、俺達は長く触れるだけのキスをした。
「誓いのキスみたいだ」
俺が言うと、赤い目をした彼女は花が開くようにゆっくり華やかに笑った。
「誓いのキスですよ」
まだ始まったばかり。まだまだ解決しなければいけないことはあるかもしれない。
それでも、大切に育てていこう。
「信じる愛」があるから。
to be continued
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