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寄ってくる女性をあしらうのも、段々面倒になってきた。
だから、男性が対象だと思わせるような雰囲気を出してみた。事情も、友人たちには前もって伝えている。
同業者には少なくない。友人として付き合う分には、何の抵抗もない。だから、フリをするのは、非常に心苦しい。
そんなわけで、しつこい女性の前限定。
ただ、普段から自分のことを「私」とだけは言うようにしている。
俺は人を見ると、つい植物になぞらえてしまう。花ならまだ良い。
茗荷とか、ドクダミなんて思い付いたと聞いたら、あまり良い気はしないだろう。
だから、誰にも言わない秘密。
彼女を初めて見たとき、芍薬を思い浮かべた。ピオニーという名前が、浸透しつつあるけれど、“芍薬”だ。見た目の美しさだけでなく、儚さや潔さが彼女と重なった。
話すたびに、初対面のような態度で接するのは彼女の決まりのようだ。こちらが、知り合いだということを匂わせると、控え目だけれど、彼女も若干寛いだ雰囲気を出す。
でも、きっと気を遣って合わせているだけで、決して無防備にはならない。常に、気を張って人と関わっているのだろうと思う。
そう思うようになったのは、店で姿を見かけるようになって半年ほど経った頃。
花を眺めているときの、彼女のゆったりした表情を目にしたから。
緊張が解れた頬。
優しい眼差し。
口元に浮かんだ微笑み。
心を奪われた。
俺が、彼女をこんな表情にさせる存在になりたい、と願ってしまった。
更に半年が経った今も、片想い中。
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