201人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
02 germination
月曜日は店休日だ。
しかし、彼女を待ちわびていた土曜日、うっかり店頭受渡しの予約を受けてしまった。
旦那様から奥様へ、結婚記念日のお祝いだそうだ。
お薦めを聞かれ、咲く間際の白の芍薬を勧めた。理由を聞かれたので、答えた。
「芍薬はこの時期だけのお花です。華やかで美しい上、白の芍薬の花言葉は『幸せな結婚』です。喜ばれると思いますよ」
彼は顔を赤らめて、「それでお願いします」と言った。
彼は雪柳だな。春、白く小さな花を咲かせる庭木だが、秋の紅葉も美しい。寒さにも強い。そんな印象だ。
俺と同じくらい、いや幾つか上だろうか。結婚指輪をしている。オムツのパッケージを手に、買い物帰りの様子。きっと、奥様とお子さんが家で待っているのだろう。
以前は何とも思わなかったのに、なんだか羨ましい。
月曜日の18時、仕事帰りに寄るとのことだった。その時点で気付かないくらい、俺は気がそぞろだったみたいだ。
カードを付けるかどうか尋ねると、見せて欲しいと言う。深いグリーンに白抜きで店名を入れたカードの裏に印刷したメッセージには幾つか種類がある。
「Thank You」「Happy Anniversary」「Happy Wedding」等々。
彼は「Happy Anniversary」のカードを手に何度か裏返し、少し悩んでいた。
「どうされました?」
「いえ、素敵な店名だなと思って…。あのー、僕は悪筆なので店名の前後にメッセージを書いていただけますか?」
「承知致しました。メモをご用意します。お待ちください。カードは、月曜日花束と一緒にお渡ししますね。」
他のお客様に気付き、そちらの対応をしている間に書いていただくことにした。
最初のコメントを投稿しよう!