02 germination

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 5分ほど経って戻ると、まだ悩んでいる風情。余程、拘りたいらしい。 「すみません。初めての結婚記念日なので、思い出に残るものにしたくて」  「見せて頂いて、差し支えないですか?」  一瞬隠しかけて、恥ずかしそうに見せてくださった。 “A&S vow 「eternal」happiness.” 「不勉強でお恥ずかしいのですが、『vow』はどういう意味ですか?」 「『誓う』という意味です。」 「『永遠の幸せを誓う』素敵なメッセージですね。何を悩まれているんですか?」  彼がオムツに視線をやったので、思わず笑いが洩れてしまった。 「赤ちゃんだからまあいいかと思いつつ、蚊帳の外というのも、何だか可哀想で」  彼は恥ずかしそうに笑った。奥様とお子さんを、とても大切にしているのだろう。外にいても、思いが溢れてしまうくらいに。 「それなら、『We』はどうでしょうか?それで、書き出しに“To A”、最後に“ From S”と入れるのは如何でしょう?」 「ありがとうございます。そうしてください!助かりました。それなら頭文字じゃなくて名前にします。」  彼はメモ用紙の裏面に、改めて記入し直していた。 「文字色は白で良いですか?」 「はい。白でお願いします」  何だか良いことをした気分だ。  その上、幸せをお裾分けして貰ったみたいだ。  そのせいか、少し浮かれていたようだ。  受け取りの日が店休日だと気付いたのは、翌日の日曜日。お昼時になり、店内にお客様がいなかった時のこと。  可愛らしい字も美しい文字も、自由に書ける優秀な社員の長坂に、あのメッセージの記入をお願いした時だった。  店休日は、事前予約の配達のみ受け付けている。店を開けると、ありがたいことにお客様がいらっしゃるから。  浮かれていたのと、彼女の来店を期待するのと両方か。それに気づいて苦笑した。
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