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5分ほど経って戻ると、まだ悩んでいる風情。余程、拘りたいらしい。
「すみません。初めての結婚記念日なので、思い出に残るものにしたくて」
「見せて頂いて、差し支えないですか?」
一瞬隠しかけて、恥ずかしそうに見せてくださった。
“A&S vow 「eternal」happiness.”
「不勉強でお恥ずかしいのですが、『vow』はどういう意味ですか?」
「『誓う』という意味です。」
「『永遠の幸せを誓う』素敵なメッセージですね。何を悩まれているんですか?」
彼がオムツに視線をやったので、思わず笑いが洩れてしまった。
「赤ちゃんだからまあいいかと思いつつ、蚊帳の外というのも、何だか可哀想で」
彼は恥ずかしそうに笑った。奥様とお子さんを、とても大切にしているのだろう。外にいても、思いが溢れてしまうくらいに。
「それなら、『We』はどうでしょうか?それで、書き出しに“To A”、最後に“ From S”と入れるのは如何でしょう?」
「ありがとうございます。そうしてください!助かりました。それなら頭文字じゃなくて名前にします。」
彼はメモ用紙の裏面に、改めて記入し直していた。
「文字色は白で良いですか?」
「はい。白でお願いします」
何だか良いことをした気分だ。
その上、幸せをお裾分けして貰ったみたいだ。
そのせいか、少し浮かれていたようだ。
受け取りの日が店休日だと気付いたのは、翌日の日曜日。お昼時になり、店内にお客様がいなかった時のこと。
可愛らしい字も美しい文字も、自由に書ける優秀な社員の長坂に、あのメッセージの記入をお願いした時だった。
店休日は、事前予約の配達のみ受け付けている。店を開けると、ありがたいことにお客様がいらっしゃるから。
浮かれていたのと、彼女の来店を期待するのと両方か。それに気づいて苦笑した。
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