01 seed

1/5
199人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ

01 seed

「あっ!」  足元に、はらはらと花びらが散った。  葉を払い、膨らんだ芍薬の蕾に触れた途端の出来事だった。  もう手慣れているつもりだが、数が多いとどうしても咲かせてあげられないものを出してしまう。以前と比べれば、随分少なくなったけれど。  産地や入荷時期、気温によっても扱いが変わってくる。咲かないかと思えば、一斉に開花し、満開を迎えてしまうこともある。  ブライダルで使うため、あちらこちらの産地から、毎日少しずつ入荷しているが、タイミングを合わせるのが難しい。  だから、面白い。  そして、この華やかな姿と、思いきりの良い散り際に魅力を感じる。和風にも洋風にも使えるのも良い。  色々考えながら、自分が本当は気になっている出来事の、周辺を辿っているだけなのだと本当は分かっている。 ーー咲いたかな?  “緑さん”と呼んでいた美花さんが、芍薬の“深山の雪”を買ってから一週間以上経った。同じ品種でも個体差があり、色合いは異なる。雪というくらいだから白だけれど、淡いピンクを感じさせる。  大粒だけれど、かなり固い蕾だった。きっと苦労しているに違いない。  もしかしたら、今の俺みたいになってしまったかもしれない。  咲いたら店に来る、という約束を交わしていた。  花を絶やさない生活をしていることは、遣り取りから分かった。「eternal」の常連で、驚くほど花の扱いが上手いようだ。ダリアを2週間近く咲かせていた話には驚いた。外側の花弁を切り始めたから、他の花を買いに来たと言っていた。恐るべし、緑の手だ。  だから、もともと月に2、3回しか来店しない。1回だけの時もある。  こんなことを把握している時点で、自分の感情の向きを自覚するべきだとは思うが、まだそのときではない気がする。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!