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シャロンは目の前に広がる海を見つめながら、カナリアを抱き上げる。
「この広い海のように、これから先、あなたの視野は広く、そして深くなっていくだろう。そうなったら、私はあなたに話したいことがある」
「話したいこと?…それは、この前言っていた『迷っていた』ことと関係あるかえ?」
『迷っていたこと』…それは数日前、シャロンがカナリアに「これがきっと最後」だと告げた理由を問うた時に返ってきた答えだった。
「…それは、あまり関係ないよ。ただ本当に迷っていただけだ。あなたと共に向こうの国へ渡るかどうか決めかねていたんだよ。私がいなくともあなた1人ででも行ってくれれば安心だと思ったからね…でも、こうなってしまった以上、心配で仕方がないから共に行くことにした。それにあの時は、夫婦関係を解消しようかとも考えていたからね」
「なぜじゃ?」
「あなたは私に縛られる必要などないからだよ。私の願いは、あなたが向こうの国へ行って健康になってくれることだったから…あなたさえ健康に戻ってきてくれれば、それで良かった。夫婦のままでいるのは私のエゴだと、そう考えていたから『これがきっと最後だ』と言ったんだろう。まあ、この一件で離れていると私の身が持たないことを痛感したわけだが……」
「…で、では今言っていた話したいこととはなんじゃ?」
「ああ…それはまだ話せない。もっとずっと先、もしかしたら私が死ぬ間際になるかもしれない」
「そんな寂しいことをいわんでくりゃ」
「死は寂しいことではないよ。死は確かに終わりを意味するが、不完全な始まりでもあるのだから…、だが、今世の内にはあなたに伝えて置きたいから、なるべく早く成長しておくれ」
髪を梳く優しい手を摑まえて、頬を擦り寄せたまま、カナリアは「うん」と元気よく頷いた。そして。
──ピュイィイッ
──ピュゥウッ
「レイデ!ポジェリ!」
空を見上げると、そこにはローズ、ロデと共に港で見送りをしてくれたはずのレイデとポジェリが、羽を広げて飛んでいた。きっと一時の分かれを惜しんでくれているのだ。カナリアは、二匹に向けて大きく手を振った。
空を滑空するレイデとポジェリは、それに答えるようにより一層高らかに鳴く。
──────海が、空が、青く染まる快晴の日。カナリアは、大陸の向こうへ飛び立った。
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