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プロローグ
拝啓 マサルさんへ
最近は、ベッドから下りられない日々が続いておりますが、あなたが残してくれた桜の木を見て、元気をもらっています。
あなたもあちらで元気にしていますか?肌寒いので、風邪を引かぬようご自愛ください。
月日が経つというのは早いもので、あの日から、今年の8月で77年を迎えますよ。こんな平和が訪れるなんて、あの頃は思いもしませんでしたね。
そうそう。今年も、桜が綺麗に咲きましたよ。
今日は、あなたの娘と孫の和人が遊びに来てくれます。庭の桜の木を一緒に見ながら、あなたのことを話してあげるつもりです。
365日、あなたのことを愛しています。
あなたの元へ行ける日まで、頑張ります。
それでは、また。
敬具
いつものように、便箋にあなたへのラブレターを綴っていると、娘と孫の声が聞こえてきた。
「おばあちゃん、来たよ?元気にしていた?」
「和人。久しぶりね…お正月以来かしら?大きくなったわね」
私を見つけて、すぐに優しい言葉をかけてくれた和人。いつも、玄関を直接上がらずに、庭を回ってきてくれる。靴を脱ぎ捨て、近くに来てくれた和人の頭を撫でると、照れて、靴を片手に玄関の方へと向かってしまった。恥ずかしいお年頃のようです。
「お母さん?風邪とか引かなかった?なかなか来られなくて、ごめんね」
「いいのよ。たまに、こうやって元気な顔を見せてくれるだけで、お母さんはうれしいわ」
和人とすれ違うように、愛子がやって来た。私の手を握ってくれた愛子に、和人にしたように頭を撫でると、はにかんだ。あなたの娘と孫は、優しい子に育ってくれましたよ。
愛子が炊事や洗濯、掃除をしている間、今までに書いたラブレターの数々を見返していると、和人が来た。
「和人、そこに座ってお話しましょう?何歳になったの?和人は」
「18歳!もう、大人だよ。この春から高校3年生だよ」
「そうなの。マサルさんと出逢った時と同じ年齢ね。優しい目とか、若い頃にそっくり」
椅子を私の近くまで移動させてきた和人は、若い頃のあなたにそっくりです。
「マサルさんって、僕のおじいちゃんでしょう?おじいちゃんのこと、知りたい!」
和人が言うなら、あなたと出逢う前から、お話しましょうか。マサルさん。
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