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大人達を母と健三さんの母と兄達で一緒に外までお見送りをすると、父と健三さんの父が来てくれた大人1人1人に感謝を述べる姿が見えて驚いた。
「父がお辞儀している…」
「そっか、まだ依ちゃんは見たことなかったか。依ちゃんが見ていないところで、父もいろいろと人間関係を大事にしているんだよ」
私の呟きを聞き逃さなかった匠兄さんが私の頭を撫でながら教えてくれた。匠兄さんを尊敬の眼差しで見つめていると、私の視線に気がついたのか匠兄さんは私に微笑んだ。
しばらく匠兄さんと面白い話をしていると、勇兄さんと健三さんがにこやかな顔でやってきた。
「依ちゃんも匠も何、話してるの?」
「勇兄ちゃんと健三さんのちっちゃい頃の話!」
それを聞いた勇兄さんと健三さんが匠兄さんに詰め寄る。
「俺達のちっちゃい頃の話ってなんだよ」
2人の声が揃う。詰め寄られた匠兄さんはひきつった笑みを浮かべる。
「白状しろ、このこの!」
2人にくすぐられ、楽しそうな匠兄さん。しかし、そろそろ限界なのか、私に目で助けを求めている。
「匠兄さんのちっちゃい頃の話も知ってるよ?」
それを聞いた2人の手が止まる。今度は2人がひきつった笑みを浮かべている。形勢逆転だ。
「勇兄さんと健三さんこそ、俺のいないところで何、話してくれてるんだよ」
2人の手を押さえ込みながら匠兄さんは笑っているがその目は笑っていない。
「そんなたいしたことじゃないってーーー」
またわちゃわちゃし始めた兄達の姿を楽しく見ていると、健三さんの両親が来た。健三さんの母が言う。
「健三さん、そろそろ帰りましょう。明日も早いんだし」
「そうだね。…じゃあ、また明日」
「…また明日」
3人は握手を交わすと、頷きあった。そして、健三さんは私の頭に手を置くと、言った。
「依ちゃんも明日ね…」
「…明日ね」
私が微笑むと、健三さんは私の頭をポンポンしてから聞いた。
「はー、かわいいな。持って帰っていい?」
「ダメに決まってるだろう」
兄達が声を揃えてそう言う。これが、いつものお決まりで、やらないと帰れなくなっている。匠兄さんが私を背中に隠すと、健三さんの母が兄達に言った。
「勇さん、匠さん…健三のこと、よろしくお願いいたします」
「…はい!お任せください」
勇兄さんが笑顔で言うと、健三さんのお母さんは頭を下げた。健三さんは額に手を当て、顔を赤くしている。「勘弁してくれ…」と呟くのが私の耳には届いていた。すると、今度は母が健三さんのもとへ来て、手を握った。驚いた顔をしている。
「健三さん、勇と匠のことよろしくお願いいたします」
「あっ、はい!お任せください」
健三さんは勇兄さんと同じことを言いながら唖然とした顔で頭に手を当てている。勇兄さんと匠兄さんの顔を見ると、2人も赤くなっていた。
「兄ちゃん達、お顔、あかーーー」
「依ちゃん、しー!」
匠兄さんが私の口を手で押さえると、勇兄さんも人差し指を口元に沿えていた。今、思えば兄達も和人のようにお年頃だったのだ。何度か頷くと、安堵の表情を浮かべながら兄さん達は私の頭を撫でた。そして、顔をにやけさせる健三さんを見た勇兄さんが拗ねた目を向けながら言う。
「何、笑ってるんだよ…」
「別にー。ただ、どこの親も同じなんだなって思ってさ」
「そうだな…」
3人は挨拶を交わしあう両親を見ながら呟いていた。その顔は切なさと照れ臭さが混じっていたように思う。
その後、健三さんは別れがたいのか何度もうしろを振り返り、手を振っている。それは兄達も同じなのか、その背中が消えるまで決して家に入ることはなかった。すると、母が玄関で靴を脱ぎながら言った。
「依子、さっさと寝なさい。もう、寝る時間とっくにすぎてるんだから」
「…はーい」
返事だけは一応したが、なかなか行動に移す気にはなれない。今にして思えば、これが私の最初の反抗期だったのかもしれない。そんな私を見て匠兄さんが何か言おうとした瞬間、勇兄さんがくしゃみをした。私達の目が勇兄さんに向かう。勇兄さんは鼻をこすりながら、言った。
「依ちゃん、戻ろう?お兄ちゃん、肌寒くなってきた」
匠兄さんの顔も見ると、鼻のてっぺんが赤くなっている。私は返事の代わりにくしゃみをした。それを見た兄達は顔を見合わすと笑った。私も遅れて笑うと、3人で家の中へ戻った。
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