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寝巻きに着替え、布団に横になって早くも30分が経過した。全然、寝つけない。そして、何げなく天井を見てしまい、シミと目があった私は怖くなって余計に眠れなくなった。私は急いで部屋から抜け出すと、兄達の部屋の前に来ていた。
(明日から兄ちゃん達いないのに…こんなんじゃだめじゃん…でも、眠れない、どうしよう)
廊下を行ったり来たりしていると、勇兄さんが笑いをこらえたような顔で出てきた。
「依ちゃん、何してるの?もしかして、眠れないの?」
「だって、壁のシミが…目があっちゃったんだもん。怖い…」
寝巻きをくしゃくしゃにしながら助けを求めると匠兄さんも顔を出した。
「それは大変だ。よし!じゃあ、今日は一緒に寝ようね」
「勇兄ちゃん…いい?」
匠兄さんの提案に勇兄さんにも聞いてみると、勇兄さんは答えの代わりに私の手を引き、部屋に招き入れてくれた。
「依ちゃん、おいで?さっきからずっと入っていたから、温いよ?」
既に布団の中で寝転んでいた匠兄さんが手招きしている。手を入れると、確かに温かい。匠兄さんは私が入れるようにずれると、熱気が逃げないように布団を少しだけ持ち上げた。その中に潜り込み、布団から顔を出すと、兄達は笑った。
「こうやって寝るの、川の字って言うんだよね」
「そうそう!物知りだね、依ちゃん」
記憶があるうちに川の字で寝るのは、ずっと憧れだった。それが今叶った。勇兄さんは私のことを褒めながら自分の布団の中に入ると、手を出した。その手を不思議な顔で見つめていると、勇兄さんは、はにかみながら言った。
「お兄ちゃんと、手、繋ごう?」
「繋ぐ!」
ようやく理解できた私は勇兄さんの手を握ると匠兄さんの手も握る。匠兄さんは一瞬驚いた顔をしてからうれしそうに握り返してくれた。
その日の夜は、3人で手を繋ぎながら眠りについた。
次の朝、いよいよ兄達が発つ日になった。日の出とともに起きた私は、準備万端。しかし、両親は起きてこない。言葉少なに身支度を整える兄達と両親の部屋を交互に見ると、飽きた私は居間へ向かった。卓袱台の上に何か包みが置いてあった。メモも添えられている。私は廊下を滑るように兄達のもとへ行くと、2人の手を引っ張った。
「兄ちゃん、来て!」
「えっ?どうしたの?」
「いいから、いいから」
驚いている兄達の手を一生懸命に卓袱台の前まで連れてくると、満足げな顔で汗を拭った。包みとメモを見たまま兄達は固まった。その手は震えている。
「兄ちゃん…?」
兄達は両親の部屋の前に行くと、戸の向こうにいる両親に向かって2人で言った。
「ここまで育てていただき、ありがとうございました…」
兄達は頭を下げると、しばらく目を潤ませながら両親の部屋を見つめた。その姿を陰から見ていた私に気づくと、兄達は天井を見上げながら大きく息を吐き出した。
「よし!依ちゃん、行こうか」
私に手を伸ばす兄達の笑顔は、いつもと変わらなかった。
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