別れ

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 3人で駅へと向かう道を手を繋ぎながら、おしゃべりして歩く。いつもと何も変わらないが、どこか違う。勇兄さんが言った。  「依ちゃん、駄菓子屋に寄ろうか」  「あっ!健三さんの所、寄るんだね」  健三さんのところへ行く時、いつも兄達はそう言っていた。だから、すぐにピンと来た。  「そうそう!依ちゃん、駄菓子屋、好きだもんね」  匠兄さんが楽しそうに言う。よく兄について行って内緒でお菓子をよくもらっていた。大きく頷いた私だが、他にも兄達の知らない目当てがあったのだ。 桜の木を曲がると、すぐに駄菓子屋が見えてきた。しかし、健三さん達の姿が見当たらない。  「健三さん達、いないねー」  「ねっ。先に行っちゃったのかな?勇兄さん、待ち合わせしたの?」  匠兄さんが私の隣にしゃがみながら勇兄さんの顔を見上げた。  「したんだけどねー。迎えに行くからって言ったんだけど…」  頭に手を当てながら首をかしげる。勇兄さんもわけがわからないようだ。  「ちょっと、様子見てくるから2人はここで待っていて?匠は依ちゃんが木に登らないように見張っていて!」  「了解!」  私と匠兄さんに微笑んでから、勇兄さんは駄菓子屋へ入っていった。頬を膨らませながら拗ねていると、匠兄さんが笑いながら私の両頬を指で挟み、空気を出させた。  「そんな顔しないの」  「だって…」  木登りは確かに好きだけど、こんな時にするほど空気が読めないわけではない。匠兄さんを拗ねた目で見ると、私の頬をツンツンしながら言った。  「依ちゃんはどんなに大きくなっても、お兄ちゃん達のかわいい大切な妹だからさ、心配なんだよ」  「そっかー…遠くにいてもそれは変わらない?」  私はそれがずっと気がかりだった。匠兄さんは私の手を握り、何回か揺すると言った。  「当たり前だよ…遠くにいたってお兄ちゃん達はここにいるし、いつも依ちゃんのことを思っているよ」  私の心臓をトントンするその目は潤んでいる。安堵の表情を浮かべると、勇兄さんが戻ってきた。  「おかえり、勇兄ちゃん!」  「…おかえりなさい。健三さん、いたの?」  匠兄さんの潤んだ目を一瞬だけ見てから何事もなかったように胡座をかくと、私をその上に乗せ、言った。  「寝坊…したんだってさ」  「…寝坊?」  唖然とした顔で聞き返す匠兄さん。勇兄さんは頷いてから、吹き出した。  「健三のお母さん、申し訳なさそうな顔してたよ。お父さんも慌てて着替えていてさ、うちの男どもは…って嘆いてた」  それを聞いた私達は大笑いした。  なんの涙かなんてわからないが、こぼれてしまった涙を3人で拭うと、健三さんの両親と健三さんがやってきた。  「いやー、待たせたな!目が覚めて遅刻したってわかった時のあの顔を見せたかったよ」  照れ笑いを浮かべる健三さん。その後ろでは、おじさんの曲がったネクタイを直すおばさんがいた。  「健三は本当に昔から変わらないよな。小学校の入学式もそうだったし。大丈夫ですよ、お母さん」  汽車に乗り遅れるんじゃないかと心配を口にしている健三さんの母に勇兄さんが言えば、健三さんまで驚いている。  「お母さん達には申し訳ないですけど、集合時間は7時ですから」  「えっ!嘘の時間、俺に教えたのか?」  驚きの目で勇兄さんを見つめる健三さん。  「こんなこともあろうかと思ってな。健三が居眠りしていた時はバレるんじゃないかって肝が冷えたが、終わりよければ全てよしだな」  「よくない!ギリギリまで眠れたかもしれないのに…」  健三さんはご飯よりも何よりも寝ることが好きで、最低でも8時間は寝ないと気がすまない人だった。疑問を抱いた私は2人を微笑ましく見守っている匠兄さんの袖を引っ張った。気づいた匠兄さんは私と目線をあわせる。  「依ちゃん、どうした?」  「今、何時なの?」  匠兄さんは袖を少しだけまくると、腕時計に視線を落とした。  「あと少しで6時30分ってところだね。だから、あと30分はのんびりできるよ」  私にもわかるように匠兄さんは教えてくれた。  「やったー!」  私は無邪気に喜んだ。匠兄さんが微笑むと、まだ言い争っている2人に声をかけた。  「兄さん達、そろそろいい加減にしないと…依ちゃんの集中力がなくなってきてるよ?」  暇すぎてうずうずし始めた私の手を繋ぎながら苦笑いを浮かべた。それに気づいた2人は顔を見合わすと、困ったような笑みを浮かべた。  「汽車の中で眠れば?」  「だな。汽車の中で爆睡してやる」  どうにかこうにか納得させると、私達のもとへ戻ってきた。  「依ちゃん、お待たせ」  「もう、ケンカ、おしまい?」  「いや、あれはケンカしてたわけじゃないけど…そうだね、おしまいだよ」  慌てて健三さんが否定しようとしていたが、兄達にジトーっとした目で見つめられ、諦めた。私が笑うと、健三さんの母が頬に手を当てながらため息をこぼした。  「こんなんで、あっちでやっていけるのかしら…」  心外だと言いたげな顔で口を開きかけた健三さんを手で制すと、勇兄さんは近づいていった。健三さんの母は驚いている。  「大丈夫ですよ、我々も一緒ですし。何か困ったことが起きれば3人で力をあわせて解決しますから」  勇兄さんがそう言えば、匠兄さんも健三さんも頷いている。健三さんの母が安堵の表情を浮かべると、勇兄さんが健三さんの両親に頭を下げた。  「お2人には騙す形となって申し訳ございません」  「頭をあげてちょうだい…。むしろ、こんな時間を作ってくれて感謝しているのよ?」  健三さんの母の言葉に勇兄さんが不安そうな顔で見上げると、健三さんの両親は微笑んでいた。安堵の表情を浮かべた。健三さんの父が、言う。  「では、駅に行って、あっちでのんびりしないか」  「そうですね!行きましょうか。…依ちゃん、行くよ?」  桜の木を眺めていて勇兄さんの話を聞いていなかった私の手を匠兄ちゃんが揺する。私が首をかしげると、勇兄さんが苦笑いを浮かべながら私の手を握ると、私達は駄菓子屋をあとにした。
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