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黒猫はキョロキョロと顔を巡らしては道路を渡るタイミングを計っているようだ。しかし途切れることを知らない車の往来に、完全にそのタイミングを失っている。
「まいまい……」
「わーかった! そんな目で見ないで!」
香織の何かを訴えるような視線を受けて、麻衣は肩にかけていたぺちゃんこの鞄を歩道へと投げ出すと、
「香織、鞄、よろ!」
「うん……」
香織に荷物番を頼んだ麻衣は、前を見て車の途切れるタイミングを見計らう。しばらくじっと車の往来を眺めていた麻衣は、
(今だ!)
そうして車道へと飛び出した。
一気に中央分離帯まで駆け寄ると、素早い動きで黒猫を抱きかかえる。それから一度チラリと車が来ていないことを確認してから歩道へと戻ってくる。そんな麻衣の一連の動きを見ていた香織が拍手を送る。
「おー……。さすが体育5のまいまい……」
「任せて! それよりも……、この子、大丈夫? やけにおとなしいんだけど」
麻衣の胸の中にいる黒猫は車の往来が相当怖かったのか、ブルブルと震えている。
「お前、助かったよ……」
香織が両手を伸ばし、黒猫の両手をひょいっと持ち上げると万歳の格好をさせる。しかし黒猫に抵抗する様子は見られず、香織にされるがままだ。
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