4人が本棚に入れています
本棚に追加
「まいまい……、この子、完全に茫然自失ってヤツみたい……」
「おーい、猫ー?」
麻衣に呼びかけられた黒猫がビクッと身体を震わせた。それから香織の手から自身の両手を降ろすと、じっと麻衣の顔を見つめる。
「人、間……?」
その時、麻衣の頭の中で少年のもののような声が響いた。その声を聞いた麻衣に驚いた様子は見られない。慣れた様子で黒猫をゆっくりと歩道に降ろすと、
「もうあんな危ないところ、渡っちゃダメだかんね!」
黒猫の前に人差し指を突きつけると、麻衣ははっきりとした口調でそう言った。
「大変! 香織! 遅刻!」
「え……?」
麻衣はストラップがじゃらじゃらと付いている重そうな携帯電話を取り出すと、その画面を見て慌てた。白黒の液晶画面の数字は、間もなく入学式が始まることを告げていた。
「ヤバイ……」
「走るよ! ほら! ダッシュ、ダッシュ!」
二人は黒猫へと背を向けると、駆け足で学校へと走っていく。黒猫はそんな二人の背中をじっと、黄色の瞳で見送るのだった。
最初のコメントを投稿しよう!