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2. 飛び出すべきか?
帰宅ラッシュの電車内。扉付近に立ったまま、俺はスマホで銀行の残高を調べる。
斉木さんの誕生日にプレゼントを渡して告白しようというのが俺の計画だった。
ある写真をスマホで斉木さんに見せた時、斉木さんは興奮したような声で言った。
「なにこれ? 超かわいい」
俺が飼っているアメリカモモンガの雄、モンちゃんの写真だ。毛色はグレーがかったブラウンで体長は15センチほどだ。
「アメリカモモンガだよ」
「モモンガってことは飛ぶの?」
「部屋の端から端まで滑空するよ」
「ホントに? ヤバい、マジでかわいいんですけど」
俺はモモンガをプレゼントする予定だ。だがアメリカモモンガは個体数も少なく、その分値段がとても高い。俺はそのために貯金している。
「お弁当作ってきてあげようか?」という斉木さんの発言。俺はその真意を測りかねている。
俺に好意を持ってくれているのならば、お弁当を作ってくれるという明後日こそ想いを告白するチャンスなのではないだろうか?
そんなことを考えているうちに電車は成城学園前の駅に着いた。改札を出た俺は住宅街を歩く。
街灯に照らされた鉄製の門を開けて外階段を上る。俺の家はメゾネットタイプになっていて1階は両親が、2階は俺が使っている。
玄関と部屋の電気を点けて、出窓に向かう。そこにモンちゃんの籠がある。夜行性のモンちゃんは籠の中で動いていた。俺は籠の扉を開けてやる。
「ん?」
すぐに滑空するかと思いきや、モンちゃんは両耳を立てて辺りを警戒しているようだ。
果たしてこのまま飛び出してもよいものか? 思案している様子である。
まるで俺の気持ちを映しているかのようだ。明後日、斉木さんに俺の気持ちを告白するべきか? 思い切って飛び出すべきなのか?
モンちゃんは大人しく籠の中にいる。俺は扉を閉め、自分の中の結論を先延ばしにした。
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