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先輩は、ずっと憧れだった。
誰より男前で、腕っ節が強くて、度胸も座ってて、そのせいでワルだとの評判も高かったけど意外に面倒見も良くて。そのくせ、実は結構抜けてて、アタマ悪いんじゃないの? て所もあって(そんなことは絶対誰にも言わないけど! 誰かそんなことは言ってたらブン殴るけど!)。
とにかく、先輩に近づきたい、ちょっとでもこの人を喜ばせたい、というのがあの頃のささやかな希望だった。
そして春、あの卒業の日。意を決して先輩の元へ走り、言った。
胸のボタンを下さい、と。
先輩は、驚いたようにじっと、こちらを見つめ返し——
それから、よく言った! と言って、俺の肩を抱くようにして歩き出した。
連れて行かれたのは、先輩も世話になったという彫り師のところ。そう、刺青の。タトゥーなんてチャラそうなのじゃない、伝統的な和彫りというやつの。
あんまり先輩が嬉しそうなので結局断り切れず、そうして俺の胸にも咲いたのは、色鮮やかな唐獅子牡丹。
それは何日も痛くて、体力的にもキツくて、銭湯やプールも諦めなきゃならなくて、色々大変ではあったのだが。
まあ、先輩とおそろいだからいいのだ、これも。
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