三章

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 新次郎が身体を動かせるようになるまでに半年以上がかかった。  長期間の療養と精神的苦痛で身体はやせ細り、以前と同じように動けるまで回復するにはさらにかかった。  刀を抜くことに激しい抵抗感を覚えていたが、人々の願いではなく罪悪感によってこれを無理やり克服し、日々道場で身体を締めなおした。  初めの方は刀を抜くたびに激しい嫌悪感に襲われ吐いてしまっていた。月に光る血濡れた刃は愛する者達を奪ったそれであり、さらに愛する人によるものだったのであればなおのことである。  だが他に生きる理由もなければ、死ねる理由もなかったので、新次郎は一心不乱に刀を振るった。  大勢を斬り殺したりんは平然としていたのに対し、新次郎は鬼気迫る表情で刀を握る。  それこそが唯一自分が許される道だと信じていた。  本当に孤独ならば、むしろ新次郎は折り合いをつけなんとか心を保つことができたかもしれない。しかし門下生達や友人や親族は誰も尋ねなくなる代わりに、藩の使いや給仕達は毎日必ず新次郎のところにやってきていた。  監視の意味もあった。新次郎が逃げ出さないように、りんを斬ることができるようになるまでのお目付け役である。  しかしそれ以上に、誰も口には出さなかったが醸し出す憎しみがあった。  誰もかれもがただじっと鍛錬をする新次郎を見つめている。  物言わぬはずの彼らの眼が、新次郎に刀を振らせたのだ。  新次郎には毎日が地獄だった。
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