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 それ以来、僕は槙野さんを意識するようになってしまった。いや、自分でもダメだと分かってる。亜里沙が亡くなった時、僕は生涯彼女以外の女性を愛さない、と堅く心に決めたはずだ。それなのに、わずか1年でぐらついてしまうとは……我ながら情けない。  それに、槙野さんだってもう25だ。きっと彼氏もいることだろう……とは思うのだが……  どうもそう言う気配が、彼女からは全くうかがえない。バージョン管理システムの履歴を見ればわかる。彼女は土日も家でコードを書いているのだ。一度僕も注意したことがある。体を壊すからやめろ、と。だけど、彼女は平然とこう答えた。  ”土日にしているコーディングは趣味ですから。楽しんでやっています”  それで実際彼女はずっと体を壊さずにいるので、僕もそれっきり何も言わなくなったのだが……これでは彼氏とデートする時間も取れないだろう。  いや、そもそも、こんな風に槙野さんに彼氏がいないのを確認するような作業は、彼女に彼氏なんかいてほしくない、という僕自身の願望の表れではないか。
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