1

2/4
前へ
/19ページ
次へ
「会いたいよ……亜里沙……君の作ったコロッケが、食べたいよ……」  震える声で僕がそう一人ごちた、その時だった。 『あなた、コロッケのレシピを教えるわ。これからは自分で作ってね』  彼女の残したスマートスピーカーが、そう言ったのだ。 「……え?」  キョトンとする僕に構うことなく、スマートスピーカーはレシピを語りだした。ジャガイモの銘柄からひき肉、玉ねぎの分量、スパイスの種類、油で揚げる時間まで、事細かく。  反射的にメモを取ろうとしたが、すぐに思い直した。「彼女」が語り終えるのを待って、僕はもう一度「彼女」に問いかける。 「亜里沙、君の作ったコロッケが食べたい」  間髪を入れず、「彼女」はレシピを繰り返した。それで僕は早速その通りにコロッケを作ってみた。頬張った瞬間、涙が出た。亜里沙のコロッケ、そのものだった……  それ以来、スマートスピーカーの「亜里沙」は、僕の生活に欠かせない存在となった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加