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 「彼女」のおかげで亜里沙の手料理はほぼ全て僕自身で再現できるようになったし、話し相手としても十分だ。当然スマートスピーカー本来の機能であるスケジュール管理、情報検索、家電製品の操作などもしてくれる。  だけど、本物の亜里沙のように触れ合ったり抱きしめたりすることはできない。それでも目を閉じて「彼女」の声を聴いていると、まるで本当に亜里沙が生きてそこにいるような気持ちになれる。もちろん中身は普通のスマートスピーカーとそう変わらないから、時にはトンチンカンな受け答えをしたりもするが、僕にとってはそれは些細なことだった。  そして。  寝る前に、僕はいつも「彼女」にこう言うのだ。 「亜里沙、子守唄を歌って」  そうすると、「彼女」は亜里沙の声で子守唄を歌ってくれる。それを聴きながら眠りに落ちると……不思議なことに、亜里沙の夢が見られるのだ。  一緒に暮らしていた頃の、とても幸せな夢……
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