epilogue

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epilogue

何も考えられなかった。自分なりに考え、正しくあろうとした。この世界の真理にも触れた。それなりに尽力した。けれど、誰も皆、学んでいない。明日もまた人が何かを脅かしている。私達はいつ迄も、それを恐れ続けなければならないのか。その恐怖の根源は、きっと私が生み出した。私の作ったものは多くの人たちに何か希望を与えた。だが、同じ様に誰かを傷つけもした。憧れがあるから、必要とされたから、私は認められた。だけど、誰かがそれを快く思わなかった。だから、私は、いつ迄も地べたを這いつくばって、持ち堪えていた。私を愛してくれる人達を守る為に。愛すべきファンの為に。けれど、本当はそんなものなんの足しにもならなかった。私は作家である事を承認されても、まだ恋焦がれるのか?もう、死んでしまったかつての偉大な作家達より更に高みを目指すのか?されど、私は首を振る。高みを目指せば目指すほど、自分が如何に無知であったか思い知らされる。そして、それが如何に惨たらしいか、嫌という程、見せつけられる。世界には私は遠く及ばない。私は傍にいる太陽を照らせばもう、後は何も欲しくはない。夢や栄光もかつての黄昏。私は傍に咲く花を無下にしない。私にも愛すべき人が居た。その人を私は8年前に殺した。私はその贖罪と共に今まで文壇のトップを走ってきた。されど、そろそろ赦そうと思う。貴方を愛していた。精一杯貴方の為に、自分の可能性を信じ、貴方を超えた。だから、もう良い。貴方は遠い遥か彼方にいた。その見えない残像を私はもう、保ち続ける事は出来ない。新しい人達がまた、明日生まれてくれる。それは、希望でこそあれ、忌み嫌うものではない。そうやって迫害された昔の私が、きっと亡霊の様に影としていたのだろう。だけど、そろそろ赦そうと思う。貴方を殺した過去を赦してほしい。そして、どうか尊き貴方をこれからも、側で見守らせて下さい…。貴方を愛している。亡骸が、あったかつての場所に私は花を添えた。貴方が笑ってくれる、そう信じて今まで頑張ってきた。ありがとう、そして、どうか安らかに。貴方の苦しかった過去や、背負ってきた責任は、私がこれから背負う。だから、どうか安らかに眠ってね。愛する我が夫、かつて作家を志す同士だった、貴方に憧れてごめん。辛かった?本当にごめんね、もう貴方の泣いてる顔を思い出すと悲しくなる私を赦してほしい。私も自分の罪を認めるから。 彼女はそれから電話をかけ、警察へ出頭した。償いを本当にしなければ前に進めないのだ。私が揉み消した過去の罪を私は、無かったことにしない。そして、そうせざるを得なかった、あの頃の昔の私を、私だけは許さなければならない。ごめん、私。ごめん、私はあなたを赦します. 審判が下され、彼女は文壇から姿を消した。だが、愛されている作家だ。また、必ずカムバックするだろう。ノーベル文学賞を受賞する迄彼女の夢は果てしないのだからー。
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