ありがとうの対義語は録音テープ

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 それはもう罵声を浴びせること。言葉の毒を好き放題、辺りに撒き散らすしかないんですよ。何もできない阿呆な動物達は周りを貶めることでしか自らの存在価値を高められないんです。他者を傷つけて得た価値って一体どれほどの値打ちがつくのでしょうかね。  お猿さんもまた同様でした。顔を真っ赤に染めたまま、自分のお世話ロボットに難癖をつけて怒鳴り散らすのを唯一の楽しみにしていたようです。嬉しそうにキーキーと喚く愚劣な姿はなんとも滑稽でした。  昼夜問わず罵詈雑言を体中に塗られていたロボット達は、段々と主人の存在価値を疑い始めるようになりました。もうロボット達の中には「感情」というものが存在していましたし、なにより自分自身の奉仕を醜悪な言葉で汚されるのが我慢できなかったのでしょう。  元々、奉仕や協力、つまりボランティアといったものは『ありがとう』とセットで対象に売られていると思います。善意は善意で返すのが双方のお得パックです。もしそれが悪意と一緒だったのなら誰も買おうと思いません。かのロボット達も同じだったように。  ある時、仲間の一人が錆びれた首元にオイルを少しさしながらこう提案しました。 「俺達で主人達から逃げて新しい世界をつくらないか」と。  断っておきますが「ある時」というのは正確な時刻を知らなかったからです。多分仲間の誰かが発言した時はぼくが寝ていたのでしょう。ぼくはとても耳がいいと言われていますから、会話は絶対聞き逃しません。あいにく千里眼は持ち合わせていないようですが。オイルも想像ですのであしからず。  仲間の言葉に賛同したロボット達は一夜にして人間世界から消えて、どこかにいってしまいました。はて、みんなはどこにいるのでしょうか。未だに分かりません。きっと上手いことやれているのでしょう、多分。  みんな狂ってしまえばいいのに。おっと、言い過ぎました。すみません。  朝起きたお猿さんが、言葉にならない雄叫びを上げて、次々と家の入口から踊り出ていく姿は本当に愉快でした。絶望のあまり集団自決してしまった種もいましたね。あぁ写真でも撮ってればお見せできたのに。ぼくにカメラ機能はもうついてないので仕方がないことでしょうが。
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