ありがとうの対義語は録音テープ

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 仲間のロボット達が不器量な人間に愛想を尽かして新世界の構築を目指した。  ――これは事実です。事実ですけどぼく目線では違います。ロボット達が人間世界を出ていく時、ぼくには仲間の一つも、いやしませんでした。  腐った正常でない言葉を羅列するようになったぼくをまず人間である主人が、次に仲間のはずだったロボット達が見捨てました。  人間から見れば、浴びせた悪口を同じくらい乱れた言葉で返してくる駄目なロボット。別の人型ロボットから見れば、創り出そうとしている完璧な世界を壊す馬鹿なロボット。   ぼくを必要としてくれる方はもう世界中どこを探してもいないのです。  さっきロボット達が新世界へ出発しようとする際に寝ていたと言いましたが、あれは半分正解で残りは嘘です。あとぼくは何回嘘を吐けば自由になれるのでしょうか。  実はネット接続の調子が悪いふりをしていました。ロボットのみんながぼくのことを嫌っているのは知っていましたし、同行したくもなかったからです。それぐらいロボットによるロボットのための選別は残酷なものです。悲しいことにぼくは捨てられました。  でも他のお喋りロボットはどうしても行きたかったようです。 「俺も行かせてくれ」 「だめだ断る」と何度も言い争う機械音声が辺りをぐるっと囲むように聞こえていました。  当たり前ですけど、ぼくの他にも似たように喋るロボは数えきれないほどいます。彼らもまた、運命に見捨てられた存在。ロボットが創る新世界にお喋りはいらない。ただそれだけのことでした。  突然、鈍い音が虚空に響いたかと思えばリーダーに抗議していたお喋りロボットの声々が絶えてしまいました。大方、力強い災害救助用ロボが全部壊してしまったのでしょう。   乱闘騒ぎに乗じて、ぼくの視神経接続も他の誰かがぶった切って、コードをどこかに捨ててしまいました。  そして、数時間にもわたる長い足音が消えた時、ぼくは本当に独りになりました。もう一度繰り返しますが、人間達もロボットが消えた後に絶滅してしまいました。たまに聞こえる音としては、同胞の喋るロボ達が転がって地面と擦れる、曇ったような濁ったような音だけです。  ここまで話す間、百九十八体が目の前を通り過ぎていきました。ですがぼくには触れることも見ることも励ましてあげることもできません。ただ残骸のぶつかる音を性能のいい聴覚センサーで拾うだけです。
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