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あるところに無能だけど、とても偉そうに振る舞う人間達がいました。
「あるところに」というのはひどく曖昧なものかもしれませんが、なにせ昔のことですから記憶があまりはっきりとしないのです。
いま喋っているこの話が正しいのかもよく分かりません。要するに、「壊れかけのひび割れた思い出」といったところでしょうか。
それでもぼくは伝え続けなくちゃいけないのです。これは『ありがとう』を忘れてしまった、愚かだけど可哀想な人間のお話です。
考えてみると、二千年代の人間はさぞかし不便だったと思います。毎朝細長い鉄の塊の中、ぎゅうぎゅうに押し込まれて通勤、そして通学してたらしいですよ。たしか鉄道という乗り物のことでしょうが、現在はそんな退屈なものはありません。
目的地までぼくの仲間が一気に運んでくれて、ご希望なら空だって飛べる。とても便利な機能だと思いませんか。
ここまで住みやすい世界にしてくれた素晴らしい科学者達には頭が上がりません。あ、もちろん人間のことではないですよ。AIの知能はとっくに人類を凌駕しましたから。
昔の人達はまさかロボットの数が総人口を超えるなど予想できたのでしょうか。ついさっきから話し始めて一分ほど経過しましたが、数体もの人型ロボットがぼくの前を素通りしました。気怠そうだけど真面目臭いみんなの顔は、もはや人間そっくりです。
ヒトなんて結局二足歩行のお猿さんにしかなり得なかったってことでしょうね。
え、「バカにするな」ですって。だって本当のことじゃないですか。たかがバナナ一本の取り合いで仲間を皆殺しにしちゃう愚かな生物種。それが真実です。
さて、日常生活が徐々に機械化される中でお猿さん達にある変化が訪れました。一体何のことだと思いますか。まぁ少し考えれば分かることですが。
仕事が一切なくなったんですよ。難しいプログラミングは勿論、トイレのレバーを流すことさえ全部ロボットがやってくれるようになりました。面倒くさがり屋のお猿さんはさぞかし両手を叩いて喜んだんでしょうね。
朝昼晩と暇になってしまった動物は次に何をするのか分かりますか。
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