【6】夏至の太陽

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「おっちゃん、おはよ。悪かったな、迎えまで来てもらっちま……って、その怪我どうした?!」  翌朝、約束していた時間にアオがマンションの前で待っていると清治が迎えに来た。助手席に乗り込んで清治の顔を見ると、そのこめかみには大きな絆創膏が貼られていて階段で転んだ、と笑っている。 「それよりも、なかなか社長の予定が探れなくて悪かったよ。先代が亡くなってバタバタしてたから」 「無理なお願いして、ごめんな」 「大丈夫だ。それよりも、立派になったもんだ。スーツ着て、そんなビジネスバッグ持ってたら一流企業のビジネスマンみたいじゃないか。先代が見たら驚いただろうな」 「実際は自由業だけどな」  会社の社長室宛に何度、連絡を入れても三森に取り次いでもらえず、そのうち先代が亡くなって今日まで予定が頓挫してしまっていた。葬儀を終え、三森が丸一日出勤すると聞いた今日、アオは計画を実行することにした。  何てことのない話だ。  ビジネスバッグには異なる内容の協議書が二冊。すべてを確認してもらったうえで、今後について話ができたらと思っている。  代理人を立てることも考えた。  ――私が先に見つけたのに。  そんな三森の言葉が、アオの中で妙に引っ掛かっていた。あの日、良くわからない言葉をさんざん浴びせられ、自分に対する三森の執着、執念のようなもの感じた。それは、自分でしか確かめようがなかった。 「おっちゃん。社長って、いつも家まで送迎してるのか?」 「いや、いつもではないな」 「俺が先代の家へ行った日の朝のことって覚えてる?」 「ああ。それこそ、用があるって朝から代官山へ送って、近くで待機させられてたんだ。仕事終わりに代官山へ送ることはよくあるよ。社長も独身だから、いい人がいるんだろ」  アオは、悪寒がした。  あの八年前から感じていた視線ーー。時期がそうだっただけに詩貴の亡霊かと冗談で思っていたが、それが三森だとしたら、あの日の怒りや言動が少しは理解ができる。 「まさかな」  苦笑いを浮かべたアオは(かぶり)を振り、考えを打ち消して腕時計を見た。  午後から海へ行き、薫の実家へ泊る予定だった。  薫がマンションへ来るのは、授業が終わって二時頃。アオが薫のスマホを川に投げてしまったせいで連絡手段がなくなり、今日の予定がどうなるか分からなかった。  もしかしたら、薫は来ないかもしれない。  どちらにせよ、それまでには帰って支度をして薫を待っていようと思っている。
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