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閑話5 幼少期(5) ~武器作りと魔法の杖~
俺は間もなく10歳を迎えようとしていた。
10歳になったら本格的に冒険者活動を始めようと思っている。
これまでの鍛錬では練習用の武器を使用していたが、本格的な武器の調達が急務だ。
この世界には、高級な武器に使用される金属で前世にはなかったものが存在する。
ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンだ。
ミスリルは鉄と銀の合金であるが、銀は魔法との相性が良く、あるスキル(実際は金属魔法)を使用することで鉄よりも固く切れ味の良い武器ができる。
この加工はごく一部の才能ある鍛冶士しか行うことができないので、流通量が限られ、結果かなりな高級品となっている。
アダマンタイトはミスリスよりも更に切れ味が良く、オリハルコンは更にその上を行く最高級品とされていた。
アダマンタイトとオリハルコンについては、ヨーロッパにおいては、その製法が失伝しており、入手方法は限られている。
一つは古代遺跡やダンジョンから入手する方法、もう一つはアトランティスから輸入する方法である。
この世界では、前世では沈没したという伝説のアトランティスが存在していた。
アトランティスはヨーロッパ西方の大西洋上にある大陸で、大きさはほぼインド亜大陸ほどの三角形をした大陸である。
ヨーロッパよりも遥かに高度に発達した文明を持っているらしいが、鎖国体制にあり、ヨーロッパとはごく限られた港からごく少量の輸出入が行われているに過ぎない。
ちょうど日本が鎖国体制の折、出島に限定して貿易していたのと状況が似ている。
俺は自分の武器はぜひこの3つのうちのどれかを用意したいと思っていた。
かねてより、武器屋を度々覗いてはいるのだが、市販のもので満足のいくものは見つけられなかった。
幸い俺は鑑定スキルも持っているし、金属魔法も使える。そこで購入が無理なら、武器は自作しようと考えるに至った。
アダマンタイトは幸いこれを所有している冒険者がバーデン=バーデンにいたので、見せてもらうことができた。
鑑定したところ、アダマンタイトは鉄とダイヤモンドの合金ということが分かった。俺の金属魔法ならば再現ができるだろう。
問題はオリハルコンだが、これを持っている冒険者はバーデン=バーデンにはいなかった。どうするか思案している矢先、ツェーリンゲン家の家宝として、オリハルコンの短剣が秘蔵されていることを知った。灯台下暗しである。
俺は早速祖父にお願いすることにした。
「我が家にオリハルコンの短剣があるそうですね。後学のためにぜひ見ておきたいのですが…」
「まさか欲しいとはいうまいな。あれは領主の印の短剣なのだ」
「もちろん見るだけです。この目に焼き付けておきたいのです」
「ならば許そう。本当に一目見るだけだぞ」
しばらくすると、祖父は宝物庫から立派な意匠の箱を持ってきた。家宝というからには、入れ物も立派なのだろう。
祖父は箱から短剣を取りだす。
鞘も立派な装飾が施されている。
「鞘も立派なものですね。抜いて剣身も見せていただけますか」
「わかった。一目だけだからな」
祖父が短剣を抜いた。
色は少し金色がかっている。
鑑定してみると、鉄と銀と金の合金に金属魔法がエンチャントされているものだった。
金は銀よりも更に魔法との相性が良いが柔らかいという弱点がある。これを補うために鉄と銀を混ぜてあるのだろう。
いずれにしても成分比もエンチャントする魔法も解読できたし、材料さえあれば自作できそうだ。
早速、商会を通じて材料の調達をする。
数日後、材料がそろったので、金精霊のグルナートの監督のもとオリハルコンの制作をすることにした。
まずは、材料の成分調整からである。
調達した材料には不純物が混じっているのでそれを除いて純度を高める。
グルナートから「主様。ずいぶん上達したわね」と褒められた。
それから3つの材料を合わせ合金にする。
3種類を均等に混ぜ合わせる作業はデリケートなものだったのでだいぶ神経を使った。
さて、これから刀の形に成形するわけだが、形は自分の剣術のスタイルから片刃の片手剣(ブロードソード)と決めていた。2刀流なので2本である。
そのまま刀の形に成形することもできたが、俺は日本刀の作り方をまねて、何度も折り返し、焼きを入れて鍛錬し、粘り気のある構造にすることにした。
折り返しは金属魔法で、焼き入れは火魔法で行う。
グルナートはこの作業を興味深そうに見ていた。
剣の形ができあがり、土魔法で刃の部分を研ぐと年輪状の模様が浮かび上がる。鍛錬の結果が出ている。
最後は金属魔法をエンチャントして更に硬さと粘りを強化して完成だ。
柄と鞘の拵えはプロの職人に頼むことにする。さすがにこれは素人では難しい。
意匠はあまり華美にならないようにお願いした。目を着けられて盗まれてはたいへんだからである。それに切れ味とは関係がない。
あとは投げナイフである。
俺は魔法が使えないときの備えとして、投げナイフをベルトに何本か装着することを考えていた。
これは使い捨てになるので、高級素材ではなく鉄でいいが、この世界の鉄は炭素含有量の多い銑鉄がほとんどで、そこから炭素を除去して鋼鉄を作る技術は未熟だった。
俺は魔法で成分調整が可能なので自分用には魔法で純度100%の鋼鉄を作りこれを使うことにした。
魔法を使わない鋼鉄作成のアルゴリズムは考えてあるので、あとは商会の理系ゾンビのフィリーネにでも丸投げして実用化させよう。
◆
もう一つ用意したいのが魔法の杖である。
俺は普段は無詠唱だし、杖も使わないが、いざというときは杖があったほうが魔法を安定して使用でき、安心である。
しかし、マルクス師匠から指摘されたように魔法の杖には属性によって適した素材が異なるという問題があった。全属性使える俺としては、特定の属性を優先するということは避けたかった。
どこかに万能な杖素材はないものか。
思案の末、北欧神話に出てくる世界樹の枝はどうかと思いついた。いかにも魔法の杖の素材に向いているのではないだろうか。
植物とくれば、プランツェに聞いてみるのが一番である。
「プランツェ。ユグドラシルの木というのはどこにあるか知っているか?」
「直接見たことはないけど。どこにあるかはだいたい見当がつくよ。案内しようか?」
「よろしく頼む」
「オッケー」
よかった。自力であてもなく探すのはなんとしても避けたかったんだ。
プランツェの案内で幻幽界を進むと巨大な大木が見えてきた。さすがに世界樹の木。てっぺんは雲に隠れて見えない。いったいどのくらいの高さなのか見当もつかない。
木のある場所に着いて考える。
ここで勝手に切り取っていってもいいのだが、まずは木魔法で意思疎通を試みる。
すると、なんと向こうから話しかけてきた。
植物は通常言語を解さないが、これだけ年月を経た老木だと言語でコミュニケーションがとれるらしい。
『これは人族とは珍しいお客さんだね。何千年ぶりかな。ここに来たということは何か用かな?』
『実は魔法の杖を作るために枝をすこしばかり分けていただきたいのですが…』
『なんと。勝手に切っていく者も多いのに殊勝な心がけではないか。それならば魔法の杖に適した枝を褒美として分けてあげよ。』
すると、上から木の枝が3本ばかり落ちてきた。太さといい長さといい杖にちょうどいい感じだ。これならば少し加工するだけで使えるだろう。
『ありがとうございます』
『なに。たいしたことじゃない。恩に思うならば、また話し相手になってくれると儂もうれしい』
『近くに来たときは、こちらに立ち寄るよう心がけておきます』
『おお。待っておるぞよ』
帰りの道すがら、試してみると本当に万能の素材だった。属性によるかたよりが全くない。さすがは世界樹。
これも最終的な意匠はプロに頼むことにした。こちらは大きな無属性の魔石と各属性の小さな魔石を金の輪っかに散りばめ、いかにも魔法使いっぽい意匠にすることにした。
これなら儀式などで使ってもカッコいいだろう。
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