第42話 人造人間との対決 ~アダルベルトの苦戦、そして皇帝の愛妾~

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第42話 人造人間との対決 ~アダルベルトの苦戦、そして皇帝の愛妾~

 アダルベルトと人造人間の激しい攻防が続く。  時折、アダルベルトの剣撃が人造人間に入るが「ガキン」という音とともに跳ね返ってしまう。  ──こうなったら魔法を試すか。  アダルベルトは人造人間の攻撃を受け止めると、思いきりはじき返し、相手と距離をとった。 「炎よ来たれ。煉獄(れんごく)業火(ごうか)。ヘルファイア!」  炎の上位魔法が人造人間を襲う。  皮膚は焼けただれ、一部は炭化してはがれ、金属のボディがあらわになっているが、動きが鈍る様子もない。  ──くそっ。皮膚(ひふ)を焼いたくらいではダメか…  再び激しい打ち合いが続く。  疲労して徐々に集中力が鈍っていくアダルベルト。  そして相手のバトルアックスがダルベルトの右腕を深くえぐり、血しぶきが飛んだ。  動きが鈍った(すき)に人造人間のバトルアックスがアダルベルトの左腕を襲う。  アダルベルトが左腕を切り飛ばされることを覚悟したとき… 「ガキン」という鋭い音とともに人造人間の一撃を誰かが止めた。 「フリードリヒ様…」  アダルベルトは感激している。  こういうところに駆けつけるところがフリードリヒたる所以(ゆえん)だ。 「アダル。よくやった」  本人としては不本意なのだが、アダルベルトは気を取り直してフリードリヒに情報を伝える。 「お気を付けください。やつはアロンダイトでも切れません」 「わかった。おまえは休んでいろ。ベアトリスに治してもらえ」 「フリードリヒ様。お気を付けて」  渋々ながらアダルベルトは下がっていった。  このやりとりの間中フリードリヒは相手の攻撃をいなしていた。  ここは格の違いといったところだ。  さて。どうするか…  いちおう試すだけ試してみるか。  フリードリヒは人造人間の右腕を切り飛ばそうと剣撃を入れるが、やはり「ガキン」という鋭い音とともにはね返された。  ──オリハルコンでも切れないか…  温度差には耐えられるかな?  フリードリヒはアブソリュートゼロを無詠唱で発動した。  人造人間の表面があっというまに(しも)で覆われる。  それからのヘルファイアを発動する。  アブソリュートゼロで収縮した金属は一転して急激に膨張するはず。それで劣化するはずだ。  が、もう一度剣撃を入れてみるも「ガキン」という音とともにはね返された。  ──なんという丈夫なやつだ。いったいどんな金属でできているんだ?  フリードリヒは深く興味を引かれた。できれば破壊せずに鹵獲(ろかく)して研究対象としてみたいものだが、ちょっときついか。  そうするとやつはおそらく電子部品を使っているから、あれしかないか…  が、あれは周りへの影響が大きいから…  フリードリヒは人造人間ともども町の外にテレポーテーションで移動した。周りには誰もいない。  ここなら心置きなく戦える。  早速、フリードリヒは人造人間に雷霆(らいてい)を加減気味に落とした。  雷霆(らいてい)を落とされた人造人間は動きを硬直させた。  さすがにあれだけの電流が流れれば電子部品は無事ではいられないはずだが、どうだ?  人造人間はブスブスと内部から煙を吐きながら停止している。  ──やれやれ。これでようやくか…  フリードリヒはいちおう人造人間をマジックバッグに回収すると、まだ戦っている仲間たちのところへ戻る。     ◆  仲間たちが剣士やホムンクルスを制圧して、残る魔導士のところへ向かう。  魔導士たちはそれぞれにヘルファイアなどの上位魔法を放つがマリー、ローラ、キャリーが展開する時空反転フィールドにはね返される。  魔導士たちは驚いたようだが、咄嗟(とっさ)に魔法障壁を張り、間一髪で自らの魔法で身を焼かれる事態は回避した。 「詠唱の(すき)さえ与えなければ、魔導士など大した敵ではありませんわ」  とマリーが言った。  魔法の第2波を跳ね返した直後、メンバーたちは魔導士たちのもとに詠唱の(すき)を与えず突入し、魔導士たちを一刀のもとに切り捨てた。  だが魔法陣は止まらない。  調べてみると魔導士のリーダーらしき男が真っ黒なオーブを所持しており、これがまだ発動しているようだ。  そこに漆黒(しっこく)の長い黒髪をした美女が現れた。 「あなたたちよくも私の邪魔をしてくれたわね。これで自滅しなさい」  突然、メンバーたちに見たこともない東洋風の化け物たちが襲いかかった。  メンバーたちは化け物に応戦するが手ごたえがない。が、中には時折手ごたえのある者も混じっている。どういうことだ?  ちょうどそこに人造人間を倒したフリードリヒが戻ってきた。  すると仲間たちが見えない敵と戦っているではないか。  これは幻惑魔法の一種だな。しかし、闇系の魔法とは原理が違うようだ。フリードリヒの知らない系統の魔法だった。  これではディスペルのしようがない。 「皆、これは幻惑の魔法だ。同士討ちをしないよう気をつけろ」  しかし、幻覚を見分けろというのも難しい話だ。  術者と思われる黒髪の女を何とかせねばなるまい。 「おや。新しい仲間の登場かい。おまえも自滅しろ!」  と言うと黒髪の女は幻惑の魔法をフリードリヒにかけてきた。  フリードリヒは神力も総動員して正気を保つよう必死にレジストする。  結果、なんとかレジストできたようだ。  フリードリヒは幻惑されたふりをしながら、徐々に黒髪の女に近づく。  十分近づいたと思われるところで、黒髪の女のところへ突撃した。 「狐火!」  青白い炎がフリードリヒを襲う。  しかし、これを時空反転フィールドで跳ね返した。  女はこれを予想していたらしく、跳ね返した狐火を余裕で避けている。  だが、その(すき)をついてフリードリヒは黒髪の女の首筋に剣を突き付けた。 「まいったよ。降参だ」  女は恐怖も見せずに淡々と言った。 「おまえは誰なんだ。薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)の一員か?」 「私があんなお下劣な集団の一員であるものか。今回は取引で利用しただけだ。  私はクララ・エシケーだ。皇帝に盾突く気があるのなら殺してみな!」  クララは余裕の表情である。  クララ・エシケ―は確か最近皇帝の覚えがめでたい愛妾だったはず。  確かにここで殺して皇帝の恨みを買うのは良くない選択だ。 「やむを得ない。解放しよう」  と言うと首に突き付けた剣を下ろした。 「この借りは返すからね」  と言うとクララは暗闇の中に溶け込んでいった。  残るは魔法陣だ。 「オスクリタ。いるか?」 「ここに」  いつの間にか横に控えていた。  少し離れたところから情勢を見極めていたらしい。  可能性としては低いが、オスクリタが幻惑されていたら、皆は無事ではすまなかっただろう。賢い選択だ。 「あの魔法陣が解除できるか?」 「多少複雑だから…1時間くらいかかるけど…できる」 「なら。よろしく頼む」  予定どおり1時間ほどして魔法陣は解除された。  これで住民たちは正気に戻るはずだ。  その後、薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)の構成員で息のあるものを探してみたが見つからなかった。一人くらいは拘束(こうそく)して情報を聞き出すべきだったか。  エリーザベトの姿は、やはりなかった。また、混乱に乗じて逃げたのだろう。要領のいい女だ。     ◆  ここは天界。  今日もガブリエルは苦々しい表情でミカエルを見ていた。  ミカエルは相変わらず天界からフリードリヒの様子を(うかが)っている。  ガブリエルがお小言を言う。 「ミカエル様。天使の頂点にあられる方が1人の人族にお心を割くなどあってはならぬことと存じます」 「いや。あやつの活躍を見ていると心がドキドキするのだ。見ていないときもふとした拍子にやつのことを考えてしまう。それが楽しいのだ」 (それはもはや恋というのでは)と言いかけたがガブリエルは思いとどまった。それこそ最上級の天使と人族の恋などあってはならぬことだからだ。 「そうは言いましても、少しはご自重なさいませ」 「ああ。わかっている」  ミカエルは、心ここにあらずという感じで答えた。 「おっ。敵を撃退したようだぞ。早速行くか」 「お待ちください。ミカエル様!」  ガブリエルの制止も聞かず、ミカエルは地上へ降りていってしまった。ガブリエルは慌てて後を追う。  フリードリヒのもとに光輝く鳥の羽のようなものが舞い落ちてきた。  上空に気配がするので見ると、武装した女性の姿があった。ミカエルだ。これももう慣れた。 「これはミカエル様。お久しぶりです」 「神はこの度の働きを喜んでおいでです。あなたの行いをずっと見ておられますよ」 「いつもありがとうございます」 「私もあなたのことはずっと見守っていきます。これからも期待していますよ。励みなさい」  そう言うとミカエルは上空へ去っていた。  毎度のことながら、最上級の天使が度々自分のもとを訪ねる事態に不思議な違和感を持つフリードリヒだった。     ◆  翌日。  アウクスブルクへ戻るとフリードリヒはシュバーベン公のもとへ行き顛末(てんまつ)を報告した。 「うむ。その薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)という(やから)が闇魔法で住民を(あやつ)っていたということだな」 「ですから住民には何の罪もありません。ただの被害者ですからお(とが)めはなきようお願い申し上げます」 「あいわかった。この(たび)はご苦労であった」 「ははっ。では失礼いたします」  フリードリヒはシュバーベン公の部屋を後にした。  部屋を出るとヴィオランテが待ち構えていた。 「今回はご苦労様でした。無事に解決できてよかったですね」 「ああ。ありがとう」  ヴィオランテはすかさずフリードリヒの腕にしがみついて来る。シュバーベン公の邸内で多少恥ずかしくはあったが、フリードリヒは拒否しなかった。  ちょうどそこへシュバーベン公が部屋を退出してきた。  フリードリヒとヴィオランテが腕を組んでいるところを目撃してしまう。  ヴィオランテの幸福そうな様子を見るとあの者のもとに嫁がせるのが本人のためとも思えてしまう。  だが、ヴィオランテの婿は最低でも伯爵である必要がある。  あの歳では難しいだろうなとヴィオランテを憐れむシュバーベン公であった。
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