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第49話 対デンマーク戦争(3) ~デンマーク艦隊壊滅~
フリードリヒは更なる追撃を指示する。
「ペガサス騎兵は矢を補充し、焼夷弾を装填せよ!」
焼夷弾は、発火性の薬剤である焼夷剤を装填した砲弾で、攻撃対象を焼き払うために使用する。このような事態も想定してタンバヤ商会で開発してあったのだ。
「魔道小隊と竜娘たちもスタンバイしておけ」
「「「了解しました」」」
「ねえねえ。フリードさん。私も竜になれるよ」
タラサが聞いてきた。
「しょうがない。おまえもだ」
「やったー」
相変わらず緊張感のないやつだ。
「主様。準備ができました」
ペガサス騎士団長のネライダが報告してきた。
「よし。では出発だ。敵を追いかけるぞ!」
「「「了解!」」」
ペガサスが一斉に羽ばたき、竜たちも上空へ飛んでいく。
「ねえ。フリードさん。チューして」とタラサが言う。
──そういえば、キスしないと竜になれないんだったな。
「しょうがない。では、脱げ」
「はいっ? こんなところで?」
「服が破れてしまうだろう」
「ああ。そういうこと」
「何だと思ったんだ?」
「いやあ。とにかく後ろを向いて」
そういうとタラサは建物の陰に入り、脱ぎ始めた。衣擦れの音が聞こえる。ちょっと照れ臭い。
「いいよ」
建物の陰に行くと全裸のタラサが赤い顔をして必死に前を隠していた。
「あんまり見ないで!」
「別にそんなつもりは…」
するとタラサの方から強引にキスしてきた。色気も何もない。
タラサの体が膨らみ始め、そこに邪悪そうな竜の姿が現れた。
タラサは竜娘たちを追いかけて行った。
「では、俺も行くか…」
フリードリヒは杖に跨ると飛翔して皆を追いかける。
部隊の先頭に出ると眼下に敵艦隊が見えてきた。
約束どおりハンザ都市連合艦隊がデンマーク艦隊に対して矢を射かけて攻撃している。
「まずは、ペガサス騎兵だ。突撃!」
突然の激しい羽音に両艦隊の兵士は驚き、上空を見上げている。
ペガサス騎兵に炸裂弾や矢の雨を喰らったことを知っているデンマーク艦隊の一部兵士は盾を構えて警戒している。
「焼夷弾、投下!」
ネライダの命令で焼夷弾が次々と投下される。
この時代の船は当然木製だからよく燃える。
運悪く焼夷剤を被ってしまった敵兵士が火だるまになってのたうち回っている。
「続いて、弓放て!」
ネライダが命令すると、矢の雨がデンマーク艦隊を襲う。
敵兵士も矢を打ち返してくるが、重力に逆らっては届かない。
逆にこちらの矢は重力によって加速され、威力を増している。
「魔道小隊と竜娘も行け。突撃!」
「了解!」
6頭もの竜の突然の来襲に敵兵士は恐怖した。
竜たちはそれぞれのブレスで次々と艦船を攻撃していく。
魔道小隊による炎の矢も雨あられと敵艦船に降り注ぐ。
茫然とこれを見ていたハンザ都市連合艦隊も我に返り、矢を射かけて攻撃している。
上空と横からの攻撃にデンマーク艦隊はなす術がなく、一方的に蹂躙されていく。
火で焼かれる者、矢で射られる者の悲鳴があちこちに木魂している。
諦めて水上に逃れる者も多いが、ほとんどがハンザ都市連合艦隊に捕虜にされていく。
やがて燃え上がる敵艦船にハンザ都市連合艦隊は行く手を阻まれ、追撃ができなくなってしまった。
ハンブルクはエルベ川河口から約100kmほど入った港湾都市である。ここはまだエルベ川であり、広域に艦船を展開することができないのである。
フリードリヒは、ハンザ都市連合艦隊を率いるヴィッテンボルクに近づいた。
「連合艦隊の追撃はここまででいい。あとは私にまかせてくれ」
「しかし、敵はまだ半数近く残っていますぞ。これを機に叩けるだけ叩いておかなければ!」
「もちろん承知のうえだ。見逃すつもりはない」
「ならばよいのですが…」
ヴィッテンボルクとしては暴れたりないらしい。血の気の多いことだ。
フリードリヒは、部隊へ戻ると指示を出す。
「ペガサス騎兵は矢も尽きただろうから戻って休んでいろ。魔道小隊と竜娘たちだけ付いてこい」
「僕たちだけで大丈夫なのかな」
フランメが聞いて来る。
「心配するな。海には強い味方がいる」
「強い味方って?」
「それはあとのお楽しみだ。敵が海へ出るまでゆっくり追いかける。しばし小休止を取る」
デンマーク艦隊はしばらくの間追撃を警戒していたが、これがないとみて警戒態勢を解いた。
そして数時間経ち、夕闇が迫ってきた頃…
デンマーク艦隊の兵士から歓声があがる。
「おい。見ろよ。海だ。海まで出ればこっちのものだぜ」
しかし、次の瞬間、歓声は静まった。
「くそっ。竜だ。まだ追ってくるのか…」
だが、それは終わりの始まりだった。
海面が大きく盛り上がると、巨大な触腕が何本も現れ、船に巻き付くと海中に沈めていく。
「クラーケンだ! クラーケンが出たぞ!」
「何でこんなところに?」
船乗りであればクラーケンの恐ろしさはいやというほど伝承で聞いている。デンマーク艦隊で恐怖しない者はいなかった。
残った艦船も竜のブレスと魔法の雨が襲いかかる。
運良く海上に逃れた者はスキュラの餌食となっていった。
「あんな奇妙な怪物までいるぞ。海にも逃げられない」
「いったいどうすればいいんだ…」
実際、デンマーク艦隊はなす術がなかった。
小一時間もするとデンマーク艦隊の艦船は全て沈められていた。
だが、小舟に乗り換え脱出した者が少数残っている。
フランメが張り切って言った。
「よし。あいつらは僕が…」
「待て。あいつらは見逃す。この有様を本国に伝えてもらう必要があるからな」
「ちぇっ。わかったよ」
さて、あの大量の死体を有効活用しない手はないな。
フリードリヒはデンマーク軍兵士の死体にクリエイトアンデッドの魔法を発動するとダークナイトに作り替えた。
これをとりあえず冥界に送還しておく。
これだけ仲間が増えればキングダークナイトもさぞ喜ぶだろう。
◆
フリードリヒたちがハンブルクの町に帰還するとささやかながら祝勝の宴が準備されていた。
市長が声をかけてくる。
「フリードリヒ卿。この度は町を取り戻していただき、ありがとうございました。心から感謝いたします。
ところで、デンマーク軍の方はどうなったのですか?」
「やつらの艦船はおおかた沈めてやった。これに懲りて2度と襲ってはこないだろう」
これを聞いて町の人々から歓声があがった。
あちこちで第6騎士団の兵士に対して「ありがとう」という声が聞こえる。
宴が進み、中年のやや小太りな男がフリードリヒに声をかけてきた。
「フリードリヒ卿。わいはベルンハルト・ギルマンいいますねん」
「では、ゴットハルトの父上ですか?」
「そうですねん。ゴットハルトはちゃんと役にたっとりますかな?」
「それはもう。今は商工組合総連合会の理事長として獅子奮迅の活躍をしていますよ」
「それは良かった。あいつ親に何の連絡もよこさないもので、心配しとったんですわ」
──この反応。総連合会のすごさを分かっていないな…
「男なんてそんなものですよ。でも、近々良い知らせがあると思いますよ」
「ほう。それはどういう?」
「それは私の口からは聞かない方がいいでしょう。楽しみは先にとっておいてください」
「はあ。そうでっか」
フリードリヒは、ゴットハルトとベリンダの結婚が近いと踏んでいた。
ゴットハルトは家を出てから全く帰っていないようだから、ベルンハルトの中のゴットハルトは12歳で時が止まっているに違いない。
それが16歳に成長した姿で突然に嫁候補を連れて帰ったらさぞ驚くだろう。
フリードリヒはそのシーンを想像して思わず心の中でニンマリした。
◆
宴も終わり、フリードリヒが床に入ろうとしていたところテレパシーで呼ぶ声がする。
『主様…』
『スキュラか?』
『ええ。お疲れのところ悪いんだけど、来てくれないかしら』
『わかった。今行く』
フリードリヒは衣服を整えると、テレポーテーションでスキュラのもとに向かった。
「何か用か?」
「主様。私頑張ったわ。だから…」
「種が欲しいのか?」
「そんな直接的な言い方しないで」
──スキュラはもとお姫様だからほかの連中よりは乙女っぽいということか…
「すまない。君の気が済むようにしよう」
「ありがとう」
「ところで君の××××はどこに?」と聞きそうになって思い留まる。それこそこんな直接的なことは聞けない。
だが、これまでの経験からして人の体と魚の体の境界付近であろうことは想像できた。
フリードリヒがスキュラを抱き寄せ、優しく髪を撫でるとスキュラは自然と瞼を閉じた。
フリードリヒは優しくキスをする。
そして、その晩はスキュラの気が済むまで付き合ってあげたのだった。
◆
それから1年が経とうとしていた時…
テレパシーで呼ぶ声がする。
『主様』
『スキュラか?』
そういえばしばらくご無沙汰だな。
『私のところに来てくれないかしら』
『わかった。今行く』
──うーん。このパターンは…。時期的にも符合するし…
案の定、テレポーテーションでスキュラのもとへ向かうと、彼女が生まれたての女児を抱えて待っていた。
「可愛いでしょ。あなたの子よ」
女児は怪物の姿ではなく、普通の人族のようだ。スキュラは毒で怪物にされただけだから遺伝子は人族のままということなのだろう。
──それにしても俺の繁殖力は何だ。一発懐妊が多すぎないか?
フリードリヒはスキュラから女児を受け取ると抱いてあげた。
前世での育児経験もあるので首の据わっていない乳児の抱き方も慣れたものである。
「名前は付けたのか?」
「ガラティアよ。親友だったニュムペーの名前をもらったの」
「いい名前だ」
「それで、私のこの姿では育てられないから主様が育ててあげて」
「わかった。だが本当は実母の乳で育てたいからな。たまに飲ませに来る」
「ええ。楽しみにしているわ」
◆
とはいっても、ここで頼れるのはグレーテルしかいない。
彼女なら引き受けてくれるだろう。薔薇乙女のテレーゼも手伝ってくれるだろうし。
早速、グレーテルの家へ行き頼み込む。
「グレーテル。この子を君の子として育ててくれないか」
2人目とあって、グレーテルはすぐに察してくれたようだ。
「この子はフリードリヒ様の子なのですよね?」
「ああそうだ」
「母親はどうされたのです?」
「事情があって面倒がみられないのだ」
「ブリュンヒルデと同じで、フリードリヒ様と私の間にできた子として育てればいいのですね?」
「ああ、それで頼む」
「名前は何ていうんですの」
「ガラティアだ」
「わかりました。私が育てます。ブリュンヒルデもヤーコブも妹ができて喜ぶと思いますわ」
「ありがとう。恩に着る」
テレーゼも機械人形のくせに子供好きのようで、目をキラキラさせながらガラティアを見ている。
テレーゼが頼み込んできた。
「ねえ。抱っこさせて」
「ああ。まだ首が据わっていないから気をつけろよ」
「わかってるわよ」
テレーゼは壊れ物のようにそっと受け取り、抱っこした。
「なんてかわいい子なの。ブリュンヒルデにも負けていないわ」
「ああ。そうだな」
スキュラは元お姫様だけあって美しい。その子なのだから間違いなく美しく育つだろう。
それにしても女児ばかり2人。将来は嫁に出すことになるのだろうが、今は全く想像ができない。
「娘は嫁にやらん」と言い張る父親の心境を改めて実感するフリードリヒなのであった。
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