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猟犬が捨てられた日
信用できないから証明しろと言えばアイツはマリアの命令をなんでも受け入れた。一度などパンツを脱がせて村を歩かせた事があった。
今までの仕返しに男性が通りがかった時にスカートを捲り上げるぐらいの事はするかもしれない、相手がその気になったら相手をしてあげれば?と言ってあったので、アイツは男性が通るたびに震えた。
結局、マリアはスカートを捲り上げるような事をしなかった。
解放するとアイツは恐かったと言いマリアの胸の中で1時間ほど泣きじゃくった。
それでも、マリアはアイツの事が全然信じられなかった。マリアは偶然、アイツが村長の息子達と人目につかない場所で立ち話をしているのを聞いてしまった事があった。
村長の息子達は、もうずいぶん待たされて我慢できない、マリアを襲うから、どこか人目のつかない場所に連れてきてほしいとアイツに頼んでいた。
するとアイツはその計画は白紙になったから、もうする必要はない。
マリアとその家族は自分のモノで別の遊びを始めたから、もし勝手に遊んで壊したら、村長一家にひどい目に遭わされたと父親に言いつけ別荘を引き払うと言い出した。
父親の公爵は私を溺愛しているから私が懇願すればたいていのことは聞いてくれる。
もし公爵家がここからいなくなれば公爵家に媚を売るために近くに別荘を建てた貴族たちもいなくなる。
公爵家の不興を買い、この村の収入源を潰したのが村長一家と村民が知るところとなれば、この村にあなた達の居場所はなくなるわ。
わかったら私が遊んでいるおもちゃを取り上げるような真似は事はしないでちょうだい!!とあのいつもの冷酷で人を痛め付けるのを心底楽しんでいる眼差しで村長の息子達を叱りつけ。
あまり聞き分けがないようなら、先にあなた達一家が壊れるまで遊んであげてもいいんだけどとアイツは畳み掛けた。
彼らは叱られた犬みたいにいつまでもいつまでも青い顔でうなだれていた。
やっぱりアイツは変わっていなかった、アイツは悪魔だとマリアは確信した。
ある日、マリアが家に帰ろうと通りを歩いていると村長息子のふたり組が声をかけてきた。
自分達は、もうあんたに手を出すつもりはない。頼みがあるから話だけでも聞いてほしいとマリアを人気のない場所に連れ出した。
話はこうだった。自分達はもうアイツの事が我慢ならないから襲ってメチャクチャにしてから人買いに売るか始末するつもりだ。
でも、アイツは用心深いから助けを呼べない場所で俺達に会おうとはしない。
だからアイツを連れ出してほしい。なんなら見物してアイツを侮辱したり暴行にくわわって痛めつけたっていい。
アイツは暴漢に襲われなければその夏にアンタを俺達に襲わせ、それをネタに一生言いなりにさせるつもりだったんだ!!アンタもアイツに酷い目にあった、復讐したいだろ?と秘密を暴露して計画を持ちかけてきた。
マリアは思った。こいつらはバカだ本物のバカだと。
娘が行方不明になれば公爵家の威信をかけて大規模な捜索が始まるだろうし、別荘地は終わりになり村は衰退する。
自分で自分の一家のクビを絞める事になるのがわからないのだろうか?
つまらないプライドと一家の未来を天秤にかけプライドを優先するような、こんなバカと関わったらこっちが終わるとマリアは思った。
それにそんな話を聞かせて私がNOと言えば私を帰せなくなる。帰せなくなればアイツが黙っていない…なにもかも見通しが甘過ぎる。
マリアはうれしそうにその話に乗ったフリをして令嬢襲撃の計画を3人で建て。ふたりと別れた。
そしてマリアはつけられてない事を確認して公爵家の別荘に向かった。
マリアは執事に経緯を説明した。執事は慌てて公爵の部屋に駆け込み。公爵はマリアを部屋に通すように執事に言いつけた。
公爵は娘の危険をよく報せてくれたとマリアに深々とお辞儀をしマリアの手をとり感謝の意を表した。
マリアは偉い人に頭を下げられびっくりしてしまった。
公爵は話を続けた。私の娘に天使の顔と悪魔の顔がある事を私も知っている。そしてキミが悪魔の顔の娘に酷い目にあわされ復讐しようと襲った事も知った。
だが私はキミを許す事にした。キミもいつか娘を許してやってほしい。
私にとって悪魔も天使もどちらも大切な娘だと公爵は言った。
マリアが驚いて震えていると、公爵は怯えさせてしまいすまなかった。それで、村長の息子達の件だが執事に任せたから執事がキミに協力を頼んだら引き受けてほしいと公爵に頼まれマリアは退出した。
執事はこちらに来てほしいとマリアを別の部屋に通した。そこには令嬢と同じぐらいの背格好をしたメイドが何人か呼ばれカツラをつけたり令嬢の服に着替えさせたり令嬢の声色を真似させたりで誰が一番似ているか使用人達で話し合っていた。
メイドのひとりが選ばれると執事はマリアにメイドを紹介し、メイドに令嬢のふりをさせるから村長の息子達を村外れの廃屋に呼び出してほしいとマリアは頼まれた。
メイドが相手の悪意を確認して合図を出したら公爵家が用意した男達が突入するという手筈だった。
数日後、計画は上手くいき。村長の息子達は令嬢の暴行と誘拐の未遂で捕まり、人買いも捕まった。残された村長一家はその夜、夜逃げをしていなくなった。
村長の息子達は捕まって連行される時、マリアに騙されていた事に気がついた。
憎しみと困惑の表情をマリアに向け何かを言い出そうとしているようだったが言葉に出来ず、口をパクパクさせながら役人に連れられていった。
マリアは、公爵家の大切な客として公爵家の別荘に招かれ、もてなされ時々別荘に泊まるようになった。
豪華な客間で夜中横になっているとドアを叩きいつもアイツが枕を持って入ってきた。
子供が懇願するような顔で一緒に寝てもいい?と聞き、許可するとうれしそうにベッド入ってきた。
マリアがベットで家族の近況を話すと泣いたり笑ったり怒ったりしながら自分の家族のように案じてくれたり。孤立して孤独なマリアが夢想した友達に言ってもらいたいセリフをアイツがほとんど全部言ってくれた。アイツは寝ぼけるとマリア大好きと言いながら抱きついてよくほっぺにチューをした。
マリアは孤独で友情に飢えていた。
夜、自宅で寝る前にアイツが言ってくれた言葉を思い出すと、ついうれしくなり感情の高ぶりを抑えきれなくて枕を抱きしめながら身悶えする事があった。
もうアイツの事を全面的に信用してもいいんじゃないか、許してもいいんじゃないかとマリアが思いかけた頃、別荘の客間で寝ていると深夜、泣き声が聞こえてきた。
隣でアイツがうつむいて泣いていた。
マリアがどうしたのかと聞いたら、昔よく知っていた小さな女の子の夢を見たと言った。
「その女の子はいじめられ居場所を失い追い詰められ、最後は高い建物のてっぺんから宙に身を乗り出したの。地面に叩き付けられるまでの間に今度生まれ変われたら踏みつけにされるのはもううんざりだ!!今度は踏みつける側になりたい!!と願い、潰れる間際に本当の友達が欲しいと最後に願ったの」
「誰かを踏みつけにして支配したいという気持ちも、誰かの気持ちに寄り添い力になりたいという気持ちも、どちらも本当の私の気持ちのひとつなの」と言いアイツは泣いた。
マリアは言った「あなたが私や私の家族のために尽くしてくれた事は忘れないし、私と友達になるために努力を続けてくれたことも忘れない。今度、悪魔のアナタに会ったらあなたがしてくれたように私も彼女と友達になる努力をする。約束するわ」
そう言うとアイツは顔を上げた。その顔は冷酷で人を痛め付けて高笑いするアイツの顔だった「本当に友達になってくれるの?ありがとう。私、マリアの事、昔から大好きでお友達になりたかったの」そう言うと悪魔の顔は消え穏やかな顔に変わった。
マリアは気づいた泣いてたのは悪魔のアイツだったんだと。壮絶な死を経験してアイツは心が壊れてしまったんだと。
私はアイツの事を悪魔だと思い込み、アイツがいつも心の中で迷子の子供のように泣いていたことに気付いてあげられなかったんだと…。
マリアは隣で眠る少女をいとおしそうに撫でながら小声で言った「オフィーリアあなたは私の最高の友達よ。明日からきっと私達の本当の友情の物語が始まるわ」
【完】
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