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上半身裸で髪を乾かしていた時である。私のスマホに着信が入った。
相手は奈津子である。
「はーい。もしもし」と電話でも私は偽りの声で自分を演じる。
声色を少しだけ上げるのが特徴だ。正直この喋り方は疲れる。つくづく女子は大変だと感じる。私は常に女の振る舞いとしては四角なしだ。
「あー琴、今良かった?」
「うん。大丈夫だよ。どうしたの?」
「明日、講習終わった後、暇かな? 一緒に買い物でもどうかと思ったんだけど」
「うん。行く」
「菊菜も誘う?」
「そうだね。私から誘ってみようか?」
「うん。お願い」
「分かった。じゃ、また明日」
奈津子と菊菜は私経由で仲良くなった形だ。だから大学ではいつも三人一緒にいることが自然と多い。明日は楽しみが一つできたが、ボロが出ないように念入りに気をつけなければいけない。
私は十キロのダンベルを左右で持ち上げた。
さて、筋トレしよう。お風呂に入ったばかりだが、朝また入れば良いよね。筋トレしている時が一番の快感である。日々の筋トレはやめられない。一日でも休んでしまえば筋肉が廃るような気がしていた。要は歯磨きと同じだ。一日でもしていないと気持ち悪いようなあの感覚だ。
「はー。気持ち良い」
強くて頼もしい。眠っていた力もこの時だけ解放出来る。本当の自分。
今の私は偽りの自分を捨てた。
本来、汗はベタベタして気持ち悪いものだが、私にとって汗とは努力の尊重である。汗を掻けば掻くほど、快感を得る私がいた。そんな私は端から見たら変態だろうか。
ただ、偽りの自分を演じている時は汗を掻くわけにはいかない。化粧などが取れてしまうからだ。まるでメッキが剥がされたようで怖い。
ホント、私って面倒臭い。でも、自分が好きな変態だ。
自分の筋肉に酔ってそれを他人に見せたがらない。それが私の生き方である。
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