4人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、講習終わりに私たち三人は駅地下にあるスイーツの店に来ていた。
「こ、これは……」
テーブルの上に並べられたのは分厚いパンケーキの三段重ね。おまけに最上部にはメインのパンケーキを押し退けるほどのホイップクリームがこれでもかと塗りたくっていた。カロリーの化け物である。
「実はここのパンケーキ、一度食べて見たかったのよね。でも一人で来るのも寂しいし一緒に来られて良かったよ」と奈津子は満面の笑みで言う。
「確かに私も来てみたいとは思っていたけど機会がなかったのよね。映えるわ」
と、菊菜は何枚も写真を撮りまくる。
そうだ。女子というのはこういうスイーツ好きだった。女子=スイーツという謎の法則があるくらい女はスイーツを好む。そんな私も例外ではないのだが。
「あれ、琴吹。食べないの?」と奈津子に心配される。
「た、食べるよ。あまりにもボリュームがあって見とれていただけ。ははは」
マジか。
私は別に甘いものが嫌いという訳ではない。たまに糖分が欲しくなる時はある。
だが、甘いものは脂肪になりやすく、私の積み上げてきたこの筋肉に支障を起こす恐れがあるのだ。この肉体は守りたい。しかし、交友関係を壊すのもまずい。
ついつい想像してしまう。ポッコリお腹になった私の姿。考えたくないがこの一口でその想像に繋がるとなるとなかなか手を付け辛いものである。しかし、食べない訳にもいかない。
少しなら問題ないが、目の前の糖分の化け物に私は怯んだ。
ち、ちなみにこれは何キロカロリーあるのだろうか。恐る恐るメニューに手を伸ばし、値段の下に書いてあるカロリー数字を確認する。
千五百三十八キロ!?
私が一日に摂取しているカロリーを大幅に超えている。ありえない。このパンケーキを完食するのには私としては大きなリスクがある。
どうすればいいかとあれこれ考えた結果、ここはホイップクリームを避けて食べることを決めた。そうすれば多少はカロリーを抑えられる。うん。そうしよう。
フォークでホイップクリームを皿の隅に避けていた時である。
「あれ? 琴、もしかしてホイップクリーム苦手だった?」
「え? いや、実はそうなのよね。ははは」
言い訳が苦しいか。不自然になっているに違いない。
「そうなんだ。じゃ、それ貰ってもいい?」
「良いけど……」
「ありがとう」
奈津子はホイップクリーム単体で押し込むように口の中に入れた。その行為を見た私は見てはいけないものを見たように大口を開けていた。
奈津子は身体の栄養バランスとか体重が増えるとか関係ないように己の欲望を満たす行為に過ぎない食べ方をする。太るとか頭にないのか。女なら食事には最も気を使うところじゃないだろうか。それなのに良いの? 豪快過ぎない?
私は奈津子が心配になった。
最初のコメントを投稿しよう!