家族会議

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家族会議

「みんなに集まってもらったのは他でもない。我が家にとって重要な話があってだな――」  武雄が仰々しく話しはじめた。妻の美穂、大学受験を控える長男の翔太、高校に入り少し素行が悪くなった長女の亜美。緊張した面持ちで話す父の様子に、不安の色を浮かべている。 「驚かないでほしい。いや、驚くのも無理はないか。まぁ、それでも冷静に――」 「何だよ?」翔太がしびれを切らす。 「端的に言うとだな」 「どうしたの?」美穂が焦る。 「この家族のなかに――宇宙人がいる」 「はぁ? パパ、頭でもおかしくなったんじゃないの? 今日、友達と約束があるから、そんなバカみたいな話なら、もう行ってもいいかな」と亜美。 「いや、真面目に聞いて欲しいんだ」 「真面目になんか聞けるかよ。亜美の言うとおり、時間の無駄。だいたい、どうやって宇宙人がいるって分かるのさ?」 「アプリだ」 「アプリ?」どこか好戦的に聞き返す面々。 「このアプリは、人間と宇宙人とを見分ける機能を持ったアプリなんだ」  武雄はスマートフォンを取り出し、テーブルの上に置いた。全員がそれを覗き込む。 「ちなみに父さんは、既にこのアプリを使い、家族のうちの誰が宇宙人なのかを知っている」 「冗談言わないでよ。そんなオモチャみたいなアプリで、何が宇宙人よ」美穂が鼻で笑う。 「じゃあ、実際にやってみようか」  家族がどれだけ野次を飛ばしても微動だにしない武雄の態度。それぞれの表情に浮かんだ嘲笑の色が、徐々に消えていった。 「スマートフォンを額にかざすと、画面の色が変わる。人間なら青色に。もしも宇宙人なら赤色に変わる」 「まずは父さんからやってみろよ」と翔太。  もちろん、と武雄は頷き、自らの額にスマートフォンを近づけた。すると画面が青色に変わった。 「ご覧のとおり、俺は人間だ」 「バカみたい」亜美は貧乏ゆすり。 「バカにするなら次はお前だ。亜美、前髪をかき上げてみなさい」  渋々それに従った亜美の額に近づけられたスマートフォンの画面は青色。亜美は父を小馬鹿にする。  それを見た翔太はスマートフォンを奪い取り、そそくさと自らの額に寄せる。結果は青色。 「なんだこれ? こんなの、コンパのネタにすら使えないぜ」 「バカにするのはまだ早い」  そう凄むと、武雄は妻である美穂にスマートフォンを手渡した。 「さぁ」  犯人を追い詰める探偵のように妻の肩を叩く。 「こんな気味の悪いアプリ、使いたくないわ」 「なんだ? 人間である証明ができないのか?」  武雄はさらに凄みながら手を伸ばし、美穂の前髪をかき上げる。拒む妻を許すまいと、強引にスマートフォンを額に近づけた。 「うそだ?」翔太と亜美が声をそろえる。  スマートフォンの画面が赤色に染まった。 「こんなこと言いたくないが……美穂よ、お前は宇宙人だったんだな」 「そんなわけないじゃない」  声を上ずらせる美穂。子供たちも疑いの目で母を見つめる。 「これはアメリカ航空宇宙局監修のもと作られたアプリ。残念ながらエンタメの類じゃないんだ。なぁ美穂よ、何が目的で人間に成りすましているんだ?」  自らの妻、いや、人間界に潜り込んだ宇宙人に対し、人間代表と言わんばかりの迫力で詰め寄る。美穂はうつむき黙っている。
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