5・彼女が受けた指摘

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5・彼女が受けた指摘

「で、なんだって? その人」  和宏(かずひろ)はスマホの画面に目を落としたまま、穂乃果(ほのか)に問う。 「一人称、一視点が良いって」  彼女の言葉を聞きながら、スマホをタッチし次々とページを繰っていく。 「でもこれ、群像劇なんだろ?」  群像劇とは、 いわゆるリアルと同じようなもの。  自分たちは同じ時間の中で、それぞれが別々の人生を歩んでいる。それを物語にした場合、同じ舞台の中で別の人物それぞれの物語も書いているもの。  つまり主人公は一人ではなく、登場人物それぞれが主人公となるので、多視点になるのだ。多視点で書く場合、一人称(モノローグ)にすると分かり辛くなる。  モノローグとは、心情語りと言えば分かりやすいだろうか? 「地の文を三人称で場面統一しているなら、読み辛くはないはずだろ?」  群像劇は、視点が切り替わる。  恋愛ものならば群像劇というよりも二視点から三視点が多い。  しかし戦記物になってくると、その視点の数は多くなる。  そのため、地の文をモノローグ一点の一人称にしてしまうと、誰視点か分かり辛くなってしまうのだ。  一人称とは、”僕や私”などの話し手で語られることを指す。  視点が変わるという事は、僕や私で話が進んでも”誰視点に切り替わったのか分からない”という事だ。  その為一人称で書く時は、小タイトルに誰視点なのかが書いてある場合が多い。  和宏は画面を見ながらため息をついた。 「槙田(まきた)、これさ」 「うん」  彼女は長いストレートの髪を耳にかけ、和宏の手元を覗き込む。  鼻先を掠めるシャンプーの香り。  ”近いな”と和宏は困った顔をしたが、彼女は気づいていないようだ。  元々スキンシップの苦手な和宏は妹弟や幼馴染み以外には、触れるという事をしない。いや、触れるのが怖いというのが正しいのだろうか。  妹弟にさえ、自分から触れることはないのだから。 「雛本(ひなもと)くん?」  黙ってしまった和宏を不思議そうに見上げる彼女。 「ん? ああ、ごめん」  困った表情を浮かべたままスマホに視線を落とすと、 「文字数を考えても、一ページに別の視点のものを一緒に書くのは止めたほうがいいんじゃないのか?」 と、進言する。  web小説というのは文字数を任意で決められる。  大抵スマホで読むことが多い上、持って歩けることから、ちょっとした空き時間に読む人も多い。  通勤や通学。移動時の電車の中でなど。  ページの途中にしおりを入れられないことから、一ページの量が多すぎると敬遠されがちである。その為、1000文字から3000文字くらいが読みやすく、空いた時間で感想も書きやすいのだ。  ただ見やすさに関しては、サイトの文字の大きさや横の文字数、行間にもよるので一概には言えないが。 「ページを分けたほうが良い?」 「その方が分かりやすいとは思うよ。行間がこれだけ空けていれば、分かり辛くはないが」 という和宏の言葉に、彼女はじっと画面を見つめるのだった。
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