6・彼女からの誘い

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6・彼女からの誘い

「あらすじは直そうと思うの」  画面を見つめていた穂乃果(ほのか)が呟くように言うのを、和宏(かずひろ)は黙って聞いていた。  レビューには方向性がある。  小説投稿サイトのレビュー欄に書くのは通常、読者に向けて作品の良いところやお奨め部分を書くもの。つまり、向けが読者という事だ。  そしてレビューと言う言葉に含まれる、評価評論は作家宛てのもの。  ここで作家宛てには二種類のタイプがある。一つは客観的に見て良いところ悪いところを提示する、評価評論。  もう一つは作家宛てのファンレターのようなものである、感想だ。  感想には具体的にここが良かった、ここが好きであると”引用”なども交える為、サイトによってはネタバレ機能を使う。  そうレビューと感想の違いは、ネタバレを含まず読者に伝えるのか、具体的に作家宛てに書くのかという所なのだ。  こう考えてみても、作家にとって本来嬉しいのは、感想や評価評論となる。  評価評論に至っては、公平かつ公正に書かれなければならない。  そして作家の成長に繋がるものこちらだ。  お奨めするためのレビューというのは、あくまでも読者に繋げるために書かれるもの。褒められるために書かれるものではないという事だ。  しかし、今回の場合は感想企画。  そしてそれが感想というよりも採点であったという事が問題だ。  そのせいで彼女は、完全に自信を失っている。作品を非公開にしてしまったのがその証拠とも言えるのではないだろうか。 「あらすじの書き方なら、あるよ。良ければ」 と和宏はスマホを操作すると、自身が書いている創作論のあらすじページのURLをDMに送る。 「わあ、これ分かりやすいね」 と、彼女。  和宏は思わず笑みを浮かべた。  あらすじを苦手とする人は、意外と多い。  それはあらすじを書くものと勘違いしているからである。本来あらすじとは組み立てるものなのだ。 「参考にさせてもらうね」 と、彼女がこちらに(おもて)を向ける。 「役立つと良いけれど」 と、和宏はすっと表情を隠す。  何となく自分の変化を気づかれたくなかった。  それは穂乃果だけを特別扱いしていないという、無意識下での意思表示だったのかも知れない。 「雛本(ひなもと)くんもこの後、講義ないんでしょう?」  こちらを見上げる彼女の髪が、サラリと肩から胸へと落ちる。 「そうだな」  和宏は困った表情を浮かべて。 「お礼に夕飯をご馳走させて」  彼女の言葉に戸惑うのは、別に女性になれていないからではない。  こんな”なんでもないことに、お礼をするなんて”と思ったからに他ならない。 「そんなの良いって。大したことしてないから」  和宏は、幼馴染みのことを思い出していた。  もし自分が女性と二人きりで食事に行ったら、何と言うのだろうかと。  彼女の不満そうな視線に気づかないまま。
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