オセロ

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オセロ

ある街で女子高生が忽然と姿を消した。 自称ジャーナリストの杉浦は、その街で彼女のことを聞いて回った。 誰に聞いても、答えはこうだった。 「とても優しい子だった」 「すごくいい子だった」 「何か事件に巻き込まれたに違いない」 会うたびに挨拶を交わし、困っている人がいれば声をかけ、誰に対しても平等に優しく接していたようだ。 彼女のことを悪く言う人はいなかった。 しかしただ一人、彼女と付き合っていたという男子高校生は、外面だけはいいですが、僕といるときはわがままで悪口ばかり言って、気に食わないとすぐに機嫌が悪くなる、まるで二重人格ですよ、と語った。 彼女は彼氏のことは誰にも言っておらず、他の人からは証言が取れなかったが、デートしたときの彼女の写真を見せてもらい本当だと信じることにした。 結局その後も真相はわからず、彼女は2年経った今も行方不明のままだ。 しかし今になって考えてみると、何かが引っ掛かる。 そうだ、あの彼氏だ。 あの街で杉浦は彼女を知る全ての人に話を聞いた。しかし、誰一人として彼氏の存在は知らない。 誰にも言っていなかったとしても、そんなことありえるのだろうか。気付いた人も1人もいなかったというのか。 そう思い立ち、もう一度あの街へ行き次はその彼氏のことを聞いてまわった。写真もない人物だったが、名前と特徴を頼りに聞きまくった。 すると、驚いたことに彼のことを知っているものは誰一人としていなかったのだ。 聞いていた住所も小さな公園で、もちろん人など住んでいない。 だが、ここでようやく事の真相、いや私の妄想かもしれないが、わかった気がした。 つまり、"彼こそが彼女"だったのだ。 彼女は失踪したのではなく、別人となり見事に姿を消したのだ。 そして今はどこかで普通に暮らしているに違いない。これだけの行動力があれば、生活していくための基盤はしっかりと固めているだろう。 もう少し証拠を集めたら、記事にしよう。 「おい杉浦、昨日いなかったろ。紹介する、昨日入った事務の神田さんだ。」 「よろしくお願いします。」 横目で彼女を見て、 「あぁ、どうも」 と言ったとき、きれいに二度見してしまった。 化粧をし、おそらく整形もしているが、写真で見たあの女子高生だ。そして、わずかだが記憶の中の例の彼氏の面影もあるように見えるのは、気のせいだろうか。 口を半開きのまま動けずにいると、彼女はとぼけたようにこう言った。 「またお会いしましたね。彼女は見つかりましたか。」
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