良い子が独り

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良い子が独り

これまでの16年間、誰かに怒られた記憶がない。 しかし、決して甘やかされてきたわけではない。 ただ、誰に対してもその人が望むような、何も思わないような会話を心がけてきただけだ。 そのためか、昔から"良い子"だと評判だった。 親にとっても自慢の子どもだ。 そんな"良い子"になったのには、あるトラウマがあったからだ。 昔、幼稚園児くらいの頃だったか、家族でファミレスに行った。 斜め前の席には、自分と同い年くらいの子がいた。 その子が、嫌いな食べ物があったのか大きな声で泣き出した。 するとそれを見た父が、「はぁ、、、」とため息をついたのだ。 その子は母親に「静かにしなさい」と諭され、しばらくして無言で涙を流しながら残りのご飯を食べ進めた。 ……トラウマは、このとき父がたった一回ついたため息である。 自分の中に恐怖に近い感情を植え付けるには、なぜかそれだけで十分だった。
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