ある男の運命

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ある男の運命

あるところに男がいた その男は自分の野望のためなら、なんでもした 偽り、騙し、転がし、殺す 時には名もなき女に子どもを産ませた 女は殺し、子どもは手元に置いておいた それからは自分の手は汚さず、全てその子にやらせた ある日男は愛を知った 愛を知り男は変わった そして子に告げた 今日からお前は自由だ。好きに生きろ。 子は混乱した だって自由なんて知らない 好きに生きろと言われてもどうしたらいいかわからない そこで考えた そしてある結論をだした そうだ、あれをしているときが一番心臓がドキドキする、ワクワクする きっとこれをすることが好きに生きるということ あれをいくらでもしていいなんて 最高じゃないか そこで子はこれを仕事にして数年が過ぎた ある日仕事の関係で久しぶりに父に会った 顔も体型も何もかもが前とは変わっていた 再会にこれといって特別な感情は湧かなかったが、ひとつだけ伝えなければならないことがあった 子は父に馬乗りになりながら、高揚し口角が上がりきったその顔を、父のどこか寂しそうな顔にギリギリまで近づけて言った ありがとう。あの時お父様が好きに生きろと言ってくれたから、今の私がある。 そう言って、子は鋭い刃のついた手袋をはめ、そのまま父の心臓に右手を振り下ろした 動きの止まった心臓を右手で包み込みながら、 温かい。 と一言呟いて、子はかつての我が家であった城を後にした
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