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昼八つ刻(午後二時)、勝太立会いのもと試合稽古が行われた。
「この道場では木刀での稽古が基本なんだが、練武館では竹刀での打ち込み稽古が主流だったね。今回は竹刀を使おう」
勝太に竹刀を渡され、宗次郎は鐐と向き合う。
「では、始め」
正眼の構えをとる鐐に対して、宗次郎は下段の構えをとった。
宗次郎はこの構えが得意だった。相手の攻撃に対処し易く、そのまま自身の攻撃に転じ易いからだ。そして何より動きが読みやすい。
鐐は間合いを詰め、真っ直ぐ面に向かって竹刀を振り下ろしてきた。
思った通りの攻撃に、宗次郎はさっとその太刀筋を避け自身の竹刀を振り上げた。
相手の面に打込めばそれで終わり。いつもの稽古ならそうだった。
しかし宗次郎の一太刀はぎりぎり避けられ、更に先ほど振り下ろされた竹刀が、こちらの手元に向かって伸びて来た。思ってた以上に速い返しだった。
宗次郎の口角が上がる。
普段、力の差があり過ぎる門弟達との稽古に退屈していたのだ。
腹の底から湧き上がる期待感に感情の昂りを覚えた。
久しぶりの手ごたえに、竹刀を持つ手を強く握り締める。
数回の攻防が繰り返され、追随を許さない宗次郎の攻撃が、鐐の胴に当たった時には二人の息は上がっていた。
「一本!」
「凄いじゃないか鐐! 宗次郎にこれだけ付いてくるとは! 伊庭先生直々にに指南してもらったのかい?」
「あっ、はい。物心ついた時から、道場にいましたから……」
「そぉか。これからどんどん鍛えるといい。いやぁ楽しみだーー」
勝太が鐐を称賛しているのを見て宗次郎も高揚感でいっぱいだった。
強くなる。そう確信して、強い相手と戦うことに胸が高鳴っていたのであった。
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